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いつから、ここに座っていたのだろう。
正確な時間は分からないけれど……どうやら、相当冷え切ってしまったらしい。
「……ぷくちっ」
体を震わせた秋在は、そんなくしゃみをした。
――くしゃみ、可愛すぎないか?
と言いそうになり、冬総は慌てて飲み込む。
……今は、秋在の可愛さを称賛している場合ではないからだ。
「秋在、大丈夫か? 秋の夜でも、冷えるときはガッツリ冷えるんだぞ? 風邪ひいたらどうするんだよ」
秋在の頬を、両手で包む。
そうすると、秋在は無垢な瞳で冬総を見つめた。
「いつ終わるの」
「……バイトか? あと、二時間くらい……かな」
「分かった」
秋在が、一度だけ頷く。
そしてそのまま、もう一度……体育座りをした。
(――まさか、ここで待ち続けるつもりか……ッ?)
そう気付いた冬総は、慌てて秋在の手を引き始める。
「ちょ……ッ! 風邪ひくって、マジで……ッ!」
「一緒に帰る」
「我が儘を言う秋在も可愛いけど、俺はそれ以上に秋在の体調が心配なんだって……ッ!」
何度も引っ張るが、秋在は頑なに動こうとしない。
くしゃみをしても、体が震えても、鼻や耳が真っ赤になっても。
秋在は、冬総を待つと決めたのだ。
(……困ったな)
こうなった秋在は、冬総の言葉では動かせられない。
冬総は渋々、秋在の隣に座った。
「……空気と散歩、してるんだっけ?」
「うん」
秋在は頷いて、リードを撫でる。
「今日、テレビで『空気が読めない人』って話を聞いた。ボクは空気を読むってことがどういうことか分からないから、一緒に散歩することにしたの」
「そっか」
やはり、秋在の行動理念は謎だ。
しかし冬総は、打開策を見つけた。
秋在が握っていた首輪に指で触れ、冬総は秋在を見つめる。
「――空気も、寒がってないか?」
予想外の言葉に。
秋在は一瞬だけ、瞳を輝かせた。
「空気と一緒に、中で待っててくれないか? その方が、俺も安心できるし」
そう言い、冬総は立ち上がる。
そして、秋在を抱き上げた。
今度は抵抗を示さず、秋在は素直に立ち上がる。
手を引き、冬総は秋在をコンビニの中へ連れて行く。
すると……中にいた店長と、目が合った。
「すみません。俺のバイトが終わるまで、中で待たせててもいいですか?」
「……夏形君の知り合いかい?」
「はい。恋人です」
「お、おぉう……アツアツだねぇ。店長、不意打ちすぎて照れちゃったよ」
チラリと、店長が秋在を見る。
そして……親指を、グッ、と、立てた。
「――可愛いからオッケー!」
許可をもらえて、嬉しいような……秋在が自分以外の男と二人きりになって、寂しいような。
複雑な気持ちになりながら、冬総は店長に頭を下げる。
(……俺のバイトが終わるまで、残り二時間……。……秋在、店長に迷惑かけたりしない……よ、な?)
そんな心配を、抱えつつ。
冬総は残りの二時間……若干、上の空になりながら。
それでもテキパキと、仕事をこなした。
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