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 二時間後。  秋在を待たせていた部屋へ戻ると……。  ――何故か秋在は、書類整理を手伝っていた。 「……店長。俺が言うのもなんですけど、秋在はこのコンビニにとっては部外者ですよ? いいんですか、重要そうな書類なんて見せちゃって」 「いやぁ……【猫の手も借りたい】って言うじゃないか? それとも、働かざる者なんとやら~かな? ただ待ってるのも退屈そうだったから、お願いしちゃった!」 「いいんですか、それで……」  コンビニの行く末を、ほんの少しだけ案じつつ。  冬総は秋在の頭を撫でて、帰るように促した。 「店長がいいなら、全然いいんですけど。……でも、いきなり連れてきちゃったのに中で待たせてくれて、ありがとうございました。……ホラ、秋在もお礼言って」 「ごちそうさま」 「なにか食べさせてもらったのかよ……ッ!」  秋在はなにも答えず、リードを掴んだまま、歩き始める。  ……首輪は、地面に引きずられていた。 「お疲れ様でした」 「おぉ、お疲れ様!」  挨拶を終えた冬総は、秋在と並んでコンビニから出る。  外に出て、数秒後。  突然、秋在は鼻歌を歌い始めた。 「秋在の鼻歌、初めて聞いたかも。……それ、なんて歌?」 「タイトル決めてない」  しばらく、秋在の鼻歌に耳を傾ける。  だが不意に、冬総は口を開いた。 「……なぁ、秋在。心配になるから、もうあそこで待つのはやめてくれないか?」 「分かった」  意外にも、秋在はすぐに、冬総からの頼みごとを承諾する。  鼻歌を歌うほどだし、よほど機嫌がいいのかもしれない。  その程度の考察をしてから、冬総は秋在の頭を撫でた。 「迎えに来てくれて、サンキューな? ……心配したけど、嬉しかったよ、本当に」 「うん」  そう言い。  冬総と秋在は、微笑み合った。  微笑ましい雰囲気で帰宅した……その、翌日。 「――何で秋在がここにいるんですか?」  何故か。  秋在は昨晩と同じく……裏で、店長の手伝いをしていた。 「あそこで待つなって言われたから」  答えたのは……店長ではなく、秋在だ。  書類の向きをトントンと調整しながら、なんてことないように秋在は答える。 (いや……そういう意味じゃ、なかったんだけど……)  チラリと、店長に視線を送った。  送られた視線にすぐさま気付いた店長は、冬総を見つめる。  ――そして、親指を立てた。  ――ゼロ円以上の価値を持つ、笑顔もつけて。 (――俺の秋在を、ガッツリ気に入ってるんじゃねぇよ……ッ!)  恋愛沙汰で揉めるのは、一番避けたい。  なのに、どうしてこうもきっかけばかりが増えていくのか……。  冬総はげんなりと肩を落とし、およそ学生とは思えないほど……深い溜め息をこぼす。  すると、秋在が冬総の袖を引いた。 「ねぇ、フユフサ。……ボク、私服で来た方が良かった?」  それはきっと、前回のセックスで……冬総が私服の秋在をベタ褒めしたからだろう。  問題はそこでもない。……と、冬総は内心でツッコミを入れる。 「いや、制服の秋在も可愛いよ」 「家では、私服に着替える?」 「そういう話は二人きりのときにしような?」  いくら関係性をオープンにしたとは言え、冬総の中には【モラル】という言葉が残っていた。  店長が聞き耳を立てていることに気付いた冬総は、無邪気な秋在を見つめて……。  ……『可愛いな』と思い、その頭を……愛おし気に、撫でた。

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