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ある日の、授業中。
――冬総が、初めて……眠っていた。
金髪になり、学校一の問題児と噂されている秋在と付き合っているが……冬総は決して、素行が悪いわけではない。
授業は真面目に受けるし、サボったのだって……秋在とトイレでセックスをした、あの一回だけ。
そんな冬総が授業中に居眠りをするだなんて……あまり、考えられない。
「…………」
隣の席に座る秋在は、初めて見る冬総の寝顔に興味津々だ。
目線を合わせて、なにも言わずにただジッと……冬総を見ている。
そんなことをして、数分後。
「――それじゃあ、この問題を……夏形」
居眠り中の冬総を、教師が呼ぶ。
黒板に書かれている問題を、解かせるためだ。
その声に気付いた秋在は……素早く、立ち上がる。
そしてそのまま、黒板に向かって歩き始めたのだ。
「春晴? 先生は夏形を呼んだんだぞ?」
教師の言葉を無視して、秋在は問題を解く。
チョークを置いた後、秋在は教師を振り返った。
「間違えてるの?」
「なに……っ?」
「解答。合ってるの、間違ってるの。……どっち」
黒板に書かれた解答に、教師は目を通す。
そこに書かれていたのは……非の打ち所がないほど、完璧な解答。
「せ、正解だ……っ」
「そう」
短い相槌を打った後、秋在は急いで自分の席へ戻った。
冬総は、まだ寝ている。
その寝顔を眺めるため……秋在はもう一度、冬総と目線を合わせた。
そんな至福の時間を。
「なら、こっちの問題を……今度こそ、夏形」
教師は再度、邪魔しようとしてきた。
露骨な苛立ちを表情に出して、秋在が立ち上がる。
「……おい、春晴。だから先生は、夏形を――」
「不正解ってこと?」
「……正解だ」
「そう」
その後。
教師は冬総を当てることは、諦めた。
授業が終わり、休み時間。
チャイムの音を目覚ましに、冬総がパチリと目を開く。
すると、授業中と変わらず……同じ目線に秋在がいた。
「……すげェ」
思わず、冬総は呟く。
目を丸くして、秋在は言外に『なにが?』と訊ねる。
そのことに気付いた冬総は、ふにゃりと笑った。
「――目ェ覚めて、最初に見るのが秋在って……なんか、すげェんだなァって……」
寝起きで緩んだ笑顔は、いつもの冬総よりも……どこか、愛らしいものだった。
たまたま冬総の笑顔に気付いた女子は、周りで「あの笑い方、レアじゃない?」と盛り上がっているが……そんなこと、冬総と秋在には関係無い。
「……おはよ、秋在」
普段通りの挨拶を、冬総は囁く。
そこでようやく……秋在も口を開いた。
「おはよう」
たったそれだけのやり取りに、頭が覚醒しきっていない冬総は。
……ただ、漠然と。
「あぁ……幸せ」
そんなことを、思ってしまった。
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