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 放課後になると、秋在はバイト先まで冬総について来ていた。  秋在の表情は、いつもと変わらず……どこか、ボーッとしている。  だが。 (秋在……もしかして、寂しがってるのか……?)  冬総から見ると、どことなく……寂し気に見えたのだ。  バイトを始めたのは、秋在へのプレゼントを用意する為。  そして、誕生日当日のデート費用も調達したいからだ。  この行動は全部、秋在を想ってしていること。  なのに……冬総はなんだか、悪いことをしている気分になっていた。 「今週でバイト終わるから。……な?」  そう言い、冬総は秋在の首筋を撫でる。  消えかけると、秋在は冬総に新しいキスマークを強請った。  秋在の首には最近いつも、キスマークがついているのだ。  首筋を撫でられた秋在はジッと、冬総を見上げる。 「もう一個つけて」 「……ここでか?」 「できないの?」  【モラル】という言葉が未だに健在な冬総は当然、逡巡した。  しかし、相手は秋在だ。 「分かった。……ちょっと痛いけど、我慢な?」  秋在の首筋に顔を寄せ、冬総は唇をあてる。  そして、痕を残すために……秋在の首筋を強く、吸った。  一瞬の痛みにも、秋在は動じない。  顔が離れると、秋在は冬総の腕を掴み、別のお願いを口にする。 「明日からは、毎日つけて」 「……気に入ったのか?」 「それは、分かんない。……初めてだから」 「そっか。……いいよ、分かった」  約束を交わすと、秋在は満足したらしい。  手を振って、帰路についた。  秋在を見送った後、冬総は入り口からコンビニに入店する。  すると……レジに立っていた先輩が、ニヤニヤとした笑みを浮かべて冬総を見ていた。 「よっ、夏形くん! 見せつけてくれるなぁ?」 「……お、お疲れさまです」 「どうせここのバイトも、あの子の為のプレゼント費用とかだろ? はぁ、ラブラブだな、このヤロウ!」 「あー……えっと、ありがとう、ございます?」  なんとなく照れ臭くなり、冬総は頭を掻く。  そんなウブな反応に気を良くしたのか、先輩は笑う。 「プレゼント、喜んでもらえるといいな?」 「……はい。本当に」  ふと、冬総はついさっき見送ったばかりの秋在を思い出す。  秋も深まり、外は涼しくなってきたというのに……秋在は、防寒をしない。 (せめて、もうちょっと……防寒っぽいことしてくれたらなぁ……)  キスマークの付いた、秋在の首筋。  付けたのが自分なだけに、そこが見える度に……冬総は、秋在を抱き締めたくて仕方なかった。 (抱き締めるだけで満足するのかって言うと、それはなんとも言えないけど……)  これから毎日、キスマークを付ける。  そう考えると……秋在から愛を求められて、大いに嬉しい反面。  ……ちょっとだけ、気が重たくなった。

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