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 数日後。 「――短期だったけど、お疲れ様! 本当に助かったよ!」  ついに、冬総は短期のバイトを終えた。  店長から給料を受け取り、冬総は笑みを浮かべる。 「こちらこそ、本当にありがとうございました!」  バイト自体は、苦じゃない。  対人関係も良好で、特に問題も起きなかった。  しかし……大きな解放感と達成感に、冬総の笑みは輝きを増していく。 (これでやっと、秋在にプレゼントが買える……ッ!)  自分で稼いだお金を使って、好きな人へのプレゼントを用意できる喜び。  冬総は何度も頭を下げ、バイト仲間に感謝を伝えた。 (早速明日、プレゼントを買いに行こうか。……いや。明日は秋在との時間を優先したいしな……どうしたもんか)  贅沢な悩みを抱えつつ、冬総は裏口からコンビニを出る。  ――すると。 「……ッ!」  いないはずの人物が、そこにはいた。  ――秋在だ。  鼻先を真っ赤にして、鼻をすすっている秋在が……そこにはいた。 「あ、きあ……ッ?」  ――どうして。  ――何で。  冬総は慌てて、秋在に近寄る。 「いつからここにいたんだよ……ッ!」  秋在の腕を、咄嗟に掴む。  秋在が着ている制服は、すっかり冷たくなっている。  秋在は青紫色になった唇を動かし、答えた。 「――バイトが始まってから」  そう答えた後……秋在は小さく、くしゃみをする。  体は冷え切っていて、鼻も耳も真っ赤。  おまけにくしゃみをしていて、体が震えている。  ――ここで待たないという約束は、どうしたのか。  強い力で、冬総は秋在の腕を掴んだ。 「――風邪ひくからやめろって言っただろッ!」  それは、怒りからではない。  心配と不安から出た、怒号だ。  ――だが。  ――それが秋在に伝わるはず、なかった。 「……なんで」  秋在は真っ直ぐに、冬総を見つめる。  ――そして。 「――なんでそんなに、ボクのことを避けるの」  ――心外なことを、口にした。  意味が分からず、冬総は言葉を失う。  それでも、秋在の問いは止まらない。 「――何で追いやるの。どうして遠くに行くの。なにが理由でボクと遊んでくれないの。普遍的な恋愛がしたくなったの。生産性のある恋がしたいの。自分の物差しで測れる相手を愛したくなったの」  秋在の体は、震えている。  真っ直ぐと冬総を見上げていた瞳さえも。 「――ボクと付き合うの……イヤに、なったの……っ?」  ――震えていた。  冬総がバイトを始めたのは、秋在への誕生日プレゼントを買うためだ。  それを冬総は、秋在に伝えてはいない。  ……だが、気付かれていると思っていた。  ここまできてようやく、冬総は気付く。  ――秋在にとって【誕生日】というものは……【両親への感謝を伝える日】だ。  ――自分が祝われるだなんて、微塵も思っていないのかもしれない。  ――だとしたら、今まで冬総がとっていた言動は……? (俺は……最低、だ……ッ)  ――分かってくれていると思い、説明をしなかった。  ――理解してくれていると思い、冷たく当たっていたのかもしれない。  目の前が真っ暗になるという感覚を、冬総はこの日。  ……初めて、実感した。

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