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 バイトを始めてから、一ヶ月間。  秋在は毎日……寂しそうにしていた。  ――それは、冬総に避けられていると思っていたから。  ――秋在なりに、繋ぎとめようと必死だったからだ。 「違う。秋在、違う……ッ!」  現状を理解した冬総は、慌てて秋在の考えを否定する。 「俺は、お前のためにバイトしてただけなんだ……ッ!」 「ボクはそんなこと頼んでない……っ」 「そうだけど、今のは言葉の綾で……だから、つまりッ!」  こんな言い方では、秋在を責めていると思われるかもしれない。  そう気付いた冬総は、慌てて深呼吸をする。  少しだけ気持ちを落ち着けた後、冬総はもう一度、秋在に向き直った。 「秋在の誕生日プレゼントを、俺の金で買いたかったんだ……ッ。それで、バイトを始めた。言わなくてもバレてるかもって思ってたけど、ちょっとしたサプライズ精神って言うか……ッ」 「ボクは、隠しごとされるくらいなら……サプライズなんて、されたくない」  まったくもって、正論だ。  言葉を失う冬総を見上げたまま、秋在は瞳を揺らして、呟く。 「――誕生日だけ嬉しくても、悲しいことの方がいっぱいなら……プレゼントなんて、欲しくないよ……っ」  秋在が言っていた『自分の物差しで測れる相手』というのは、あながち……間違いではなかったのかもしれない。  冬総は秋在を見ているようで、見ていなかった。  ――世界で一番、大切。  ――一等特別で、運命の相手。  そう思っていたくせに……冬総は勝手に、秋在を【今まで知り合ってきた有象無象】と同じように、当てはめていたのだ。 「ごめん、秋在。……独り善がり、だった……ッ」 「……うん」 「もう、間違えない。ちゃんと、秋在のことを考える……!」  冬総の声を聞き、秋在は。 「――じゃあ、来年は誕生日の前も……一緒に、いてくれる?」  そんな、いじらしい問い掛けをした。  秋在の言葉に、冬総は驚く。 「……来年?」  頬に、熱が溜まる。  ――嬉しい。  ――この恋だけは、独り善がりなんかではない。  秋在は今……『来年』と言った。  それは、つまり。  ――秋在の中で、来年も冬総は隣にいる。……そう、思ってくれているということだ。  喜びを噛み締めている冬総には気付かず、秋在は悲しそうな表情を浮かべる。 「……来年も、ダメなの?」  秋在のことを考えると誓ったくせに、冬総はまた、秋在を不安にさせてしまった。 「駄目じゃないッ! 来年も、再来年も! これからずっと、一番近くでお祝いさせてくれ!」 「フユフサ……っ」 「だから、秋在……ッ! 俺と、ずっと……ずっと、一緒にいてほしい……ッ!」  冬総の告白を受けて。  秋在はそっと、自分の首筋を指で指した。 「――ずっと、一緒」  そう囁いた秋在は。  ようやく、笑みを浮かべてくれた。

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