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 あれだけ『一緒にいて』と言ったくせに。  秋在は翌日……学校に、昼まで登校してこなかった。  昼休み中に登校してきた秋在を見て、冬総は笑う。 (まぁ、こういう自由なところが……堪らなく好きなんだよなァ)  惚れた弱みというものを実感しながら、冬総は自分の席に座った秋在を見つめた。 「秋在、おはよ。……って言うか、こんにちは? まぁいいや。……秋在はさ、欲しい物とかあるか?」  挨拶には返事をせず、秋在は即答する。 「紙飛行機」 「……紙飛行機?」  鞄の中から折り紙を取り出し、秋在は無表情なまま続けた。 「紙飛行機になら、どんな夢を乗せるのも自由だから」  そう言いながら、秋在は折り紙で遊び始める。  折り方からして、紙飛行機ではない。……おそらく、鶴だ。  どうやら今日はいつものようなお絵描きではなく、折り紙の気分らしい。 「じゃあ放課後、折り紙でも買いに行くか? 雑貨屋さんにでも行ってさ」 「……ボクまだ、誕生日じゃないよ?」  鶴を折る手を止めて、秋在は冬総を見る。  ……どうしてそんなに、驚いているのか。  一瞬だけ考えた後……冬総は秋在が驚いている理由に気付いた。 (――誕生日の日にデートしようって誘ったから、だろうな。たぶん)  素直と言うか、頭が固いと言うか……。  しかし、惚れた弱み。  冬総は笑みを浮かべて、秋在を眺めた。 「誕生日のデートは、もっと遠出だろう? 今日は、放課後デートってやつ」 「…………放課後、デート……」  まるで初めて知った単語のように、秋在は驚いている。  そのまま、秋在は冬総から視線を逸らした。  しかし……怒っているわけではなさそうだ。  その証拠に。 「……雑貨屋、行ったことない。冒険みたい……」  さっきから、鶴の作成が進んでいない。  同じところを、何度も指で押している。  指の動きは、どことなく落ち着きがない。 (メチャクチャ喜んでる……ッ!)  上機嫌そうな秋在に向かって、冬総は一つの提案をした。 「あ、そうだ。……秋在に渡すプレゼント買いたいから、ちょっとだけ別行動してもいいか?」  瞬間。  ――ぐしゃっ、と。  鶴になれそうだった折り紙が……ゴミへと、変化した。 「――ボクに渡す物なら、ボクの前で買えばいいでしょ」  先程までの温かなオーラが激変。  冷え切った眼差しで、秋在は冬総を睨んでいる。  ……どうやら相当、ひとりぼっちにされたことがトラウマらしい。 「そ、そうします……」  口角をひくつかせて、冬総はなんとか笑みを返す。  秋在にとって、初めて祝われる誕生日。 (――ぜ、前途多難すぎないか……ッ!)  冬総自身が思っているよりも。  冬総の役目は、責任重大なのかもしれない。 4章【不時着サプライズ】 了

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