71 / 182
5章【時限性アニバーサリー】 1
――それは。
――突然の、出会いだった。
「――あら、いらっしゃい~! あなたが『フユフサ』くんね!」
秋在の誕生日、当日。
早朝に、冬総は秋在の家を訪れていた。
すると……どこかに出掛けるような身支度を済ませていた男女二人と、遭遇したのだ。
「おはよう『フユフサ』くん。……秋在の父です」
「私は、母で~すっ!」
――それは、秋在の両親だった。
どう見ても若々しい二人の男女を見て、冬総は戸惑う。
――まさかインターホンを鳴らすより先に出迎えられるなんて、想定していなかったからだ。
――しかも、相手は恋人の両親。
いくら恋愛経験がそこそこある冬総だとしても、狼狽えて当然だろう。
「お、おはようございます……! はじめまして。……夏形冬総、です」
それでも、マイナスの印象を与えるわけにはいかない。
冬総は慌てて頭を下げ、挨拶をする。
二人の印象を、一言で表現するのなら……。
父親は【厳格】で、母親は【陽気】だろう。
にこやかな笑みを浮かべた母親が、冬総の手を握る。
「アキちゃんったら、どんな人とお付き合いしてるの~? って訊いても、抽象的なことしか教えてくれないんだもの~! 会えて嬉しいわっ!」
「こちらこそ、会えて光栄です……ッ」
「やだっ、礼儀正しい~! それにしても……ヤッパリ親子なだけあって、男の子の好みが似てるのかしら~? お母さんにとっても好みかも~!」
「んんっ、んっ! んんっ!」
「あらっ! もちろん、お父さんが一番よ~っ!」
冬総に対して乙女心全開で接してくる母親を見て、父親が複雑そうな顔をしていた。
不思議な価値観を持つ秋在からは、あまり想像できないタイプの家族だ。
(賑やかなご両親なんだな……)
最愛の妻から愛を告げられ、父親は気難しい顔をしているが……嬉しそうに見える。
すると、父親が咳払いをする。
「んんっ! ……秋在なら、部屋で寝ている。今日は、正式に約束をしていたのだろう? なら、部屋に行くといい」
「お母さんたちはね、これからデートに行くのよ~! アキちゃんが『家族でのお祝いは明日にする』って言ってたから! ……今日は、お泊りしていってもいいわよ~?」
「母さん……!」
「お母さんたち、今日は帰らないからっ! ……それじゃあね~!」
父親の腕を引き、母親が歩き出した。
ウィンクをした後、サービスかのように投げキスも送りながら。
「お、お気をつけて……!」
嵐のような両親を見送り、冬総は春晴家に入る。
……今日は、秋在の誕生日。
普段の春晴家では、誕生日に両親への感謝を伝えるらしい。
だが、今日は誕生日である秋在自身をお祝いする。
冬総とのデートを優先して、秋在は両親への感謝を明日伝えるらしい。
(今のが、秋在のご両親か……)
どちらもやはり、秋在に似ていない。
目や鼻など、顔のパーツは似ている部分があったが……性格は、どちらにも似ていなさそうだ。
けれど、分かったこともある。
(……いい人そうだな)
息子の恋人が、頭を金色にした同性でも……決して、否定してこなかった。
秋在自身の意思を尊重してくれている……ということだろう。
胸をほっこりと温めつつ、冬総は秋在の部屋へ向かった。
ともだちにシェアしよう!