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館内を一周し終えた二人は。
近くのファミレスで、遅めの朝食を食べていた。
……実質、昼食だ。
「今日は秋在の誕生日だし、秋在の食べたいものを俺も頼むよ。……シェアしようぜ?」
「シェア……」
秋在はメニュー表を眺めて、候補を二つ、呟く。
「グラタンと、ドリア」
「……随分、似た系統のメニューなんだな」
「全然違う」
秋在はわざとらしく、頬を膨らませる。
「フユフサは双子を見ても、同じこと言うの。……酷いよ」
今日の秋在は、いつも以上に話が二転三転していた。
ついていけなくて困るけど、それは秋在のテンションが上がっているということ。
表情豊かな秋在が珍しいということも重なり、多少の無茶振りは愛おしく見えた。
……いつだって、冬総の目には秋在が愛しく映って仕方ないが。
「ごめんごめん。……じゃあ、注文しようか」
店員を呼ぶために、テーブルに備えつけられたスイッチを押そうとする。
その手を、秋在が制した。
「待って。……ボクが押す」
そう言われたのなら、冬総がスイッチを押すはずがない。
(スイッチを押したがるだなんて、子供っぽいな……)
微笑ましい光景に、冬総は笑みをこぼしながら手を引く。
秋在の指がスイッチを押すと、ポーン、という、軽い音が響いた。
「面白いよね。こうしたら、誰かの時間を強制的にボクらが奪えるなんて」
前言撤回。
全然、子供っぽい理由ではなかったらしい。
秋在はテーブルに突っ伏し、メニュー表を眺めている。
どうあっても、秋在が可愛く見えて仕方ないのだから……冬総はなんでも良かった。
「お待たせいたしました! ……ご注文はお決まりでしょうか?」
数秒後。
一人の店員が、にこやかに秋在へ訊ねる。
秋在はメニュー表を眺めたまま、普段通りにオーダーをした。
「チーズの入ったハンバーグと、ナポリタン。シフォンケーキとチョコパフェも一緒に持って来て」
「メニューを復唱させていただきます! チーズインハンバーグと、ナポリタン……シフォンケーキとチョコレートパフェですね! ……シフォンケーキとチョコレートパフェは、食後ではなく、一緒に持って来てよろしいのですか?」
「そう言った」
「か、かしこまりました!」
オーダーを受けた店員は、慌てて頭を下げる。
店員が去った後、冬総は秋在を見つめた。
「……さっき言ってたメニューと、変わってないか?」
「変わってないよ?」
なにを、おかしなことを。
そう言いたげな瞳で、冬総は秋在に見つめられた。
冬総は「そっか」と相槌を打った後、にこやかに頷く。
そして……心の中で呟いた。
(――今日の秋在は、いつも以上に一筋縄じゃいかないな……ッ!)
冬総はそう、新たに確信する。
……秋在の頼んだメニューが子供っぽいことに、心の中でキュンとしながら。
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