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日が暮れるまで美術館を回った後。
冬総と秋在は、乗っていたバスから降りた。
次の目的地は……近所のスーパーだ。
二人で並んで買い物をしながら、冬総は秋在を見た。
「――なぁ、秋在? ……晩飯って、本当に俺の手料理でいいのか?」
嬉々としてカートを押している秋在が、頷く。
冬総は玉ねぎを手に取って、眉を寄せた。
「いや、秋在がいいならいいんだけど……。いきなり昨日の夜に言うから、全然練習とかできてないし……俺、チャーハンしか作れないぞ? それに、たぶんあんまり美味しくないぞ?」
「いいよ」
「そ、そうか? ……でも、お惣菜とか買った方が――」
「いいってば」
せっかくの誕生日。
秋在には、美味しいものをお腹いっぱい食べてもらいたい。
しかし、秋在がオーダーしたのは【冬総の手料理】だ。
家庭科の授業以外で料理をしたことがない冬総は、戸惑いつつも、玉ねぎをカゴに入れる。
……すると、秋在がそっと……他の玉ねぎにチェンジしていた。
どうやら、秋在からするとハズレの玉ねぎだったらしい。
他の食材も徐々にカゴへ入れていく中、冬総はふと、秋在が手にしているものを見て……怪訝そうな顔を浮かべた。
「……秋在? 一応訊くけど……その羊羹は、なにに使うつもりだ?」
「入れたいかなって」
「チャーハンにか? いやいや……料理は得意じゃねぇけど、さすがにそこまでのとんでも料理を作ったりはしないぞ?」
「ボクは時々入れるよ」
「マジか」
気になるような、食べたくないような。
(でも、他ならない秋在の手料理……羊羹の入ったチャーハンでも、俺は完食するぜ。バッチリおかわりだってする……!)
秋在への愛を再認識しつつ、冬総はスーパーを巡る。
「お菓子とか買っとくか?」
「要らない。フユフサのご飯があるもん」
「俺、愛されてるんだなァ……!」
「いまさら?」
隣に並ぶ秋在を見て、冬総は笑みを浮かべた。
その視線に気付き、秋在も笑みを浮かべる。
「楽しい?」
「なんだよ、それ。俺の台詞だろ? ……秋在は、楽しんでるか?」
レジに向かい、並ぶ。
秋在はカートを握ったまま、笑みを浮かべている。
「まだ、ヒミツ」
小悪魔的な笑みを浮かべた秋在は、どこかイタズラっぽく、そう答えた。
今日はずっと、秋在の笑顔ばかり見ていた気がする。
だからきっと……楽しんでくれていたはずだ。
(じゃないと、俺ばっかり楽しんでたことになっちまうからな。……それは、フェアじゃないだろ)
財布を取り出して、冬総は会計を済ませる。
……知らない間に食玩が入っていたのは、気付いていないフリをしておこう。
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