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 春晴家へ帰宅後。  ――冬総は、最大の敵と戦っていた。 「――うわッ! 油がメチャクチャはねるッ! なんでだ――うおッ、いてェッ!」  そう。  ……チャーハンだ。  バチバチとはねる油と戦いながら、冬総は一人で暴れていた。 「秋在、秋在ッ! 失敗するかもしれないって思ってたけど、想像以上にだいぶヤバイかもしれないッ! チャーハンが俺に攻撃して――あちちッ!」 「だから、羊羹入れるか訊いたのに」 「羊羹いれたら油がはねないのかッ? そんなワケ――いてて、いてッ!」  急いで米を投入し、油が攻撃してこないように蓋をする。  お笑い芸人でも、こんな大仰なリアクションはしないだろう。  冬総は忙しなく、チャーハンとの戦いを繰り広げていた。 (クソッ! カッコ悪い……ッ!)  チャーハンくらい、もっとスマートに作れるはずだったのに……。  正直、秋在にヘルプを求めようかと何度も思った。  ……むしろ、ほぼ求めている状況だっただろう。  しかし……料理ができるであろう秋在は、冬総の戦いを眺めているだけ。  しかも、珍しく……大笑いしながら。 「あははっ、ふふっ! ……ふっ、ははっ! フユフサ、ださぁいっ!」  散々な状況に変わりはないし、このチャーハンを秋在に食べさせたくはない。  だが……秋在は笑っている。満面の笑みなのだ。  これだけ嬉しそうな秋在を見て、リタイアするだなんて……それこそ、格好悪いだろう。  四苦八苦しながらも、冬総はなんとかチャーハンを完成させる。  秋在が用意してくれていた皿に、冬総はせっせとチャーハンをうつす。  そうしてようやく……冬総は、チャーハンとの戦いを制した。 「……可もなく、不可もないチャーハンです……」 「『不可もない』……?」 「そこはツッコまないでくれ……ッ!」  秋在が待つテーブルへ運び、並べる。  焦げてはいないが、決して見た目が百点満点というわけでもないチャーハンを見て、秋在は両手を合わせた。 「いただきます。……はむっ」  一口。  秋在はチャーハンを、口に入れた。  その様子を……冬総はドキドキしながら、眺める。 「……ど、どうだ?」 「ん……っ。……ベチャベチャのチャーハンだ」 「わ、悪かったな……ッ」 「来年はパラパラかな」  そう言い、秋在はチャーハンを食べ進めていく。  スプーンを手にとった冬総は、目を丸くした。 「……来年も、俺の手料理がいいのか? こっ、こんな出来栄えなのにか?」 「違うの?」 「いや、秋在がいいならいいんだけど。……来年はもっと練習するし」 「そっか。じゃあ、ハードル上げて待ってるね」 「チクショウ、墓穴掘ったなァ……ッ!」  一口だけ、お茶を口にする。  そして秋在は、にこりと笑った。 「うん、チャーハンだね。十三点」 「さすがに低すぎないか?」 「これでも、好きって気持ちで結構加点したよ」 「そ、そっか……。……俺も、秋在が好きだぞ」  不意打ちに、冬総は照れる。  そのままチャーハンを掬い、冬総も口に入れた。 「……ん、十三点くらいだな」 「うん」 「『うん』じゃないだろ……ッ!」  初めて振る舞った手料理は……。  とても、いい思い出とは言えない味だった。

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