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夜の散歩を終えた二人は、秋在の部屋へ向かった。
そして。
「――秋在、誕生日おめでとう。……これ、誕生日プレゼント」
冬総はついに、秋在へプレゼントを渡した。
春晴家についた頃から持って来ていたのだが、朝渡そうとすると……。
『今はまだ、受け取れない』
と言って、秋在は受け取ってくれなかったのだ。
プレゼントの入った袋は、二つ。
一つは朝から持って来ていたものと、もう一つはスーパーで買い物を終えた後に買ったものだ。
ようやく渡せたプレゼントに安堵しつつ、冬総は秋在の反応を待つ。
おそらく……誕生日プレゼントを貰ったのは、初めてなのだろう。
どうしていいのか分からないのか、秋在は戸惑っている。
「ははっ! 開けていいんだぞ、秋在」
「わ、分かった。……誕生日プレゼントって、そういうもの、なんだね」
恐る恐る、秋在は包みを開けていく。
中に入っていたのは……。
「マフラーと……こっちは、抱き枕?」
寒くなってきたというのに、秋在はマフラーを巻いた日がなかった。
そして、今朝。
頭を乗せる為の枕を抱き締めて寝ていたから、てっきり抱き枕が欲しくなったのかと思い……慌てて購入したのだ。
二つのプレゼントを抱き締めて、秋在は複雑そうな表情を浮かべる。
「誕生日プレゼント、初めてで……どうしていいのか、分かんない」
けれど、嫌がっているわけではない。
その証拠に……秋在の瞳は、輝いていた。
「『ありがとう』とか『嬉しい』とかって言葉だけじゃ、ボクの気持ちは伝わらないと思う。でも、なんて言ったら伝わるのかは……分かんない。ごめんね、フユフサ」
「いいよ、大丈夫だ」
「うん。……あのね、フユフサ」
プレゼントを抱き締めたまま、秋在は冬総を見る。
そして。
「――ありがとう。嬉しい……っ!」
――とびきりの笑顔を、咲かせた。
微笑む秋在と、距離を詰める。
冬総はそのまま、秋在の左手を引いた。
「それと、もう一個、あるんだけど……」
「ま、まだあるの……? どうしよう。どうしたらいいのか、もっと分からない……っ」
「いや! 三つ目のは……秋在、そんなに嬉しくないかもしれない……」
引かれた左手を、秋在は見つめる。
左手のうちの、薬指。
そこに……冬総は【三つ目のプレゼント】を、はめた。
「そんなに高くないし、正直重いかなって思ったんだけど……メチャクチャ悩んだし、秋在は欲しくなかったかもしれないけど……俺が、秋在に渡したかったんだ」
「こ、れって……?」
「……どうしたって、秋在は俺にとって……世界で一番、大切だから」
――左手の、薬指。
そこにはめられた【指輪】を、秋在はジッと見つめた。
「……指輪、初めてつけた」
そう呟き、秋在ははめられた指輪を様々な角度から眺める。
「……意識、しちゃうね」
「普段付けてないと、そうだよな。……今、はめてみたかっただけだから。もう外していいぞ。……これ、箱な」
「うん。……じゃあ、外して?」
言われた通り、秋在から指輪を抜く。
――やはり、気に入ってくれなかったのだろうか……。
そう冬総が思うや否や、秋在は笑った
「――ボクに指輪をはめていいのは、フユフサだけの特権。……外すのも、フユフサだけの特権だよ。他の誰にも、ボクにさえも……その権利はないの」
気に入らなかったわけでは、ない。
秋在は、きっと。
「なんか、くすぐったいね」
――心から、喜んでくれたのだろう。
秋在が浮かべている笑顔が、そう物語っている。
冬総には、そんな気がしてならなかったのだ。
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