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風呂場での行為が終わり、秋在の部屋へ戻った二人は。
秋在のベッドに、並んで寝転がっていた。
冬総の背には、秋在がべったりと抱き着いている。
「……秋在? せっかくプレゼントした抱き枕、使わないのか?」
「抱き枕なら今使ってる」
「いや、俺じゃなくて……俺があげた方の抱き枕だよ」
「ヤキモチ妬くくせに」
「俺が自分であげたプレゼントにヤキモチなんて妬くワケ――秋在、エスパーかよ」
冬総は体を反転させて、秋在を抱き締め返す。
自分が見ていないところで使われるのは、一向に構わない。むしろ、断然嬉しい。
しかし、抱き締められる選択肢の中に自分がいるのなら……確かに、自分を選んでほしいという気持ちがあった。
抱き締め合っていると、秋在の脚が、冬総の脚に絡められる。
「有能な抱き枕。あったかいし、幸せな気持ちになれる」
「抱き枕冥利ってのに尽きるな」
「だね」
冬総にくっついたまま、秋在は更に距離を詰めようとした。
冬総の胸に、頭をグリグリと押しつける。
「フユフサ。……明日の朝、楽しみにしてていいかも」
「ん? なにかあるのか?」
不確定なように聞こえる宣言に、冬総は怪訝そうな顔を浮かべた。
秋在は冬総の胸に額を当てたまま、答える。
「――嬉しくて、くすぐったくて、ちょっと困ること」
まるで、ナゾナゾだ。
(嬉しくて、くすぐったくて、ちょっと困ること……か。……おはようのキス、とかか? 嬉しいし、くすぐったいけど……ご両親が帰ってきてるかもしれない中で、キス以上のことはできないからな……。よし、きっとそうだろうな……!)
なかなかの名推理だと、冬総は自画自賛をする。
「分かった。……楽しみにしてるな」
「うん。してて」
秋在の体を、もう一度しっかりと抱き締め直す。
「秋在、おやすみ。……今日も明日も、愛してる」
「うん。……おやすみ」
幸福に包まれながら、冬総は目を閉じた。
そして、迎えた翌朝。
――冬総は、頭を抱えていた。
「――昨日の俺を殺してくれ……ッ!」
確かに、嬉しいことが起きている。
なんとなくくすぐったいが、しっかりと嬉しいことが。
しかし。
しかし……大いに恥ずかしいことだった!
――焼き魚。
――玉子焼き。
――味噌汁に、白米。
――心ばかりの、たくあん。
リビングに向かった冬総の前に、万全の状態で並んでいたのは……。
――非の打ち所がないほど完璧な、朝食だった。
「フユフサ。『いただきます』して」
「ぐぅ……ッ! イタダキマス……ッ!」
正面に座っている秋在は、エプロン姿だ。
めっ、と言いたげな秋在に向かって、冬総は深々と頭を下げる。
「……クソッ! 俺の秋在は最高だなッ! ……チクショウ、ウマいッ!」
「良かった。……おかわり、あるからね」
「いただきますッ!」
冬総が生成した十三点ぽっちのチャーハンに比べて。
――秋在が用意した朝食は、一億点。
それだけでは飽き足らず、エプロン姿によって母性が加算されている秋在が目の間にいるのだから。
――冬総は心の中で、さらに一兆点の加点をした。
5章【時限性アニバーサリー】 了
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