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痛くも痒くもない、軽すぎるパンチ。
秋在からのパンチをお見舞いされた冬総は、眉尻を下げた。
「……ごめん、秋在」
「それは、なにに対して」
「……まずは、昨日のこと」
素直に。
冬総は、秋在に向かって頭を下げる。
「昨日は、秋在が嫌がるって知ってたのに……決めつけて、ごめん」
「…………」
「それと、さっきの……母さんの態度も、ごめん」
「……うん」
「あと……」
ギュッ、と。
冬総は、自分が穿いているズボンを、強く握った。
「――母さんに、秋在と付き合ってるってこと……言ってなくて、ごめん」
頭を下げたまま、冬総は思いつく限りの罪を吐く。
秋在の反応を待つこと、数秒。
不意に。
「……えっ。あ、秋在……ッ?」
――秋在が、冬総に抱き着いた。
冬総の胸に顔を埋めている秋在は、くぐもった声で呟く。
「秋有のこと知ったの、昨日が初めてだったのに……いなくなったことを【イヤなこと】って思ってくれて、ありがと」
「秋在……ッ」
「でも。……思い出全部を【イヤなこと】って言われた気がして……ムッとしちゃって、怒った。……ボクも、ごめんなさい」
「……うん。俺の方こそ……もっと、ごめん」
秋在の背に、腕を回す。
しっかりと秋在を抱き締めて、冬総は反省をした。
すると、秋在が更に言葉を続ける。
「あの人の態度には、怒ってないよ。……あの人からは『母親だ』って聞いてないから、怒らない」
「……母さん、は……ッ」
「自覚。……ないんでしょ」
たった一瞬の、あれだけのやり取り。
それだけで、秋在は冬総の母親が【冬総に対して、母親とは違う感情を抱いている】と察したのだ。
「なら、怒るのは間違い。……あの人は今、母親じゃない」
秋在は、冬総に対して怒っていた。
しかし……冬総と母親のやり取りを見て、割って入ったのは。
――それでも、冬総のことが大切だからだ。
秋在が、更に強い力で冬総に抱き着く。
「うぐ……ッ」
咄嗟に、冬総は呻き声を漏らした。
しかし当然、嫌ではない。
負けじと、秋在を抱き締める。
そうすると、秋在が呟く。
「……仲良し、してくれたら……全部、許してあげてもいいよ」
余談だが……冬総と秋在は、ほぼ毎日……セックスをしている。
だが、昨日は部屋を追い出されたので……シていない。
「俺は、秋在とできるのは嬉しいけど……秋在は、俺に対して……怒ってるんじゃ、ないのか?」
「じゃあ、許してほしくないの?」
「許してほしいです……ッ!」
きっと、秋在は……冬総の熱が恋しくなったのだろう。
自分を見上げてくる恋人が、愛しくて堪らない。
「秋在……ッ!」
もう一度、強い抱擁を秋在へ贈る。
すると今度は、秋在も小さな声で呻いた。
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