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 カシャリと、シャッター音が鳴る。  その音に気付いたのか。  それとも単純に、冬総の気配を察知しただけなのかもしれないが……。 「……ん、っ?」  秋在がそっと、瞼を開けた。  ぼんやりとした瞳が、冬総を映す。 「……フユ、フサぁ……っ?」 「あぁ。冬総だぞ」 「……そっか、フユフサなんだぁ……っ?」  そう呟いた秋在が、ふにゃりと笑う。  そして、抱き枕から手を放してしまった。  若干その様子を『残念だ』と思いつつ、冬総は秋在に近付く。  すると……秋在が、近付いてきた冬総に向かって手を伸ばしてきた。 「俺にうつすかもとか、そういうのはないのか?」 「あったら、帰るの……?」 「意地でも帰らねェけど」  さすが秋在だ。  冬総の愛情を、よく理解している。  求められるがまま、冬総は秋在を抱き締めた。 「……隣、いいか?」 「んっ」  コクリと、秋在が頷く。  秋在が寝ているベッドに横たわり、冬総はしっかりと秋在を抱き締め直す。 「俺、みかんゼリー持ってきたんだけど……食べられそうか? ……ってか、薬は飲んだのか?」 「まだ、飲んでない……」 「じゃあ、まずはゼリーだ。みかんって平気だったよな?」 「平気。……でも、今はいい……」  今はまだ、こうして横になっていたいらしい。  ゼリーよりも自分を選んでくれのは、純粋に、喜ばしかった。  しかし、秋在の体調を心配しているのも本心だ。 「なにか食べないと、薬飲めないぞ?」  正論をかざされ、秋在が顔を上げる。  その表情は、どことなくムッとしていた。 「……可愛く睨んでも駄目だぞ。……五分しか待たないからな」 「なにか、食べればいいの……?」 「あぁ、そうだな。……もしかして、部屋になにか――」  ――瞬間。 「――ぁむ、っ」 「――うお……ッ!」  冬総の、首筋に。  ――秋在が、歯を立てた。  決して、痛くはない。  だが、妙な感覚だ。  秋在は噛むだけでは飽き足らず、舌で舐め、ときには吸っている。 「あ、秋在……? 俺、走って来たから……あ、汗、とか……ッ」 「ひょっふぁい」 「『しょっぱい』じゃなくて……う、ッ」  正直な話。  好きな子にこんなことをされて、なにも感じないほど冬総は枯れていなかった。  ましてや、相手が秋在なのだ。  学校がある日は、毎日のように体を重ねていた相手。  冬休みに入ってから、まだ数日しか経っていないが……だとしても、冬総からすると長い禁欲生活だったわけで。 (我慢だ、我慢しろ、夏形冬総……ッ! 相手は病人だ、病人だぞ……ッ! いくら、熱で潤んだ目が色っぽいとか、ちょっと汗ばんだ首筋が美味しそうとか、そもそも秋在自身……意外とそういうつもりなんじゃないか、とか……そういうことを考えるのはやめろ……ッ!)  自分の欲望を精一杯律してみるも。 「ん、む……っ」  秋在は気にせず、くぐもった声を漏らし。  冬総の首へ、愛撫に似た噛みつきをしてくる。 (が、ががッ、我慢しろッ、俺ェエッ!)  心の中でそう叫んでいる冬総に。  ……秋在は当然、気付かなかった。

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