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二十分ほど、秋在に噛まれて。
(――し、死ぬかと思った……ッ! 主に、俺の下半身と理性が……ッ!)
冬総はようやく、解放された。
なけなしの理性をフル動員させた冬総は、ひとまず、自分で自分を褒める。
しかし、そんなことは露知らず。
上体を起こし、ゼリーを食べ始めた秋在は……すっかり、普通の病人らしくなっている。
チマチマとゼリーを食べ進める様子を、冬総は和やかな気持ちで見つめた。
だが、観察をしている場合ではない。
「秋在。……何で、風邪ひいたんだよ?」
「んむ?」
「いや『んむ?』じゃなくて……。……っていうか、冬休み始まってから……一回も、連絡くれなかったし……」
スプーンを齧ったまま、秋在は小首を傾げる。
冬総は秋在を見つめたまま、ブツブツと文句に近い質問を投げかけた。
しかし、秋在はあっけらかんと答える。
――冬総にとって、度し難い理由を。
「――サンタさん捕獲作戦の準備、してた」
思わず、冬総は目を丸くする。
「……は?」
「サンタさん捕獲作戦の準備」
「いや、聞こえなかったワケじゃないんだが……」
突然、秋在がスプーンの先端を勉強机に向けた。
「近所に住んでる子供をリストアップして、サンタさんがどの家にいつ、どう侵入するのかっていう予測を立ててた」
勉強机の上には、束で紙が置いてある。
ひっくり返してみると、そこには人の名前や家の外装などがメモされていた。
……どうやら、本気で【サンタさん捕獲作戦の準備】をしていたらしい。
「そしたら、こうなったみたい」
「……もしかして、風呂の後とか……髪、乾かさなかったのか?」
「寝る間も惜しんだ」
おそらく……風呂に入ってすぐ、外へ出たのだろう。
真冬の夜にそんなことをしたら……風邪の一つくらいひいたって、おかしくはない。
「……その結果が、クリスマス直前の風邪ってことだけど……秋在は、どう思う?」
「サンタさんの呪い」
「いやにポジティブだなぁ……」
すぐさま「そんなところも好きだけど」と付け足し、冬総は椅子から立ち上がった。
そのまま秋在へ近付き、額に手をあてる。
「今日は熱、計ったか?」
「うん。……今から」
「それは『うん』じゃないな。……ホラ、コレ」
ベッドに置いてある体温計を、冬総は秋在へ渡した。
ゼリーを食べ終えた秋在は、素直に体温計を受け取る。
そして、躊躇いなくシャツを下げた。
(……う、エロい……ッ)
思春期らしく、冬総は秋在の素肌を凝視する。
秋在は気付いていないのか、気にしていないのか。
そのまま、体温計を腋に挟んでいた。
(無防備な秋在、メチャクチャ、イい……ッ! キスしてェ……ッ!)
そこで冬総は、確信する。
――今日は、とんでもない日になるだろう。
――主に、理性の面で。……と。
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