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無機質な電子音が、部屋に響いた。
体温計の音だ。
秋在は体温計を確認した後、冬総へ渡した。
「微熱」
「そっか。良かった」
ひとまず、悪化はしていないらしい。……安心、ということだ。
薬を飲んだ秋在は、そのままベッドへ横になった。
……当然、冬総を引っ張って。
そして当然、冬総は秋在を拒まない。
冬総は秋在のことをしっかりと抱き締め、頭を撫でた。
すると、気持ちよさそうに目を細めた秋在が、ポツリと呟いたのだ。
「――明後日のクリスマスデート、楽しみ……っ」
それは冬総にとって、驚きの言葉だった。
「は……? 悪化するかもしれないし、そもそも病み上がりだろ?」
「だからなに?」
「俺は……中止だと、思ってたんだが……?」
「何で?」
秋在は顔を上げて、冬総を見つめる。
「一番の先約だよ。反故になんてしない」
「だけど――」
「約束通り、うちに来てね?」
それは、冬休みが始まる前の……ある日の、放課後。
冬総は秋在に、クリスマスデートのお誘いをしていた。
普段の行動がまったく読めない秋在のことだ。クリスマスにはなにか、特殊な予定を入れているかもしれない。
ダメもとで訊いてみたのだが、答えはまさかの、快諾。
冬総は秋在と、クリスマスデートをするという約束ができた。
(てっきり俺は……サンタ捕獲作戦ってのに夢中で、忘れられてるかと思ってたんだが……)
勿論、秋在がクリスマスデートを楽しみにしていてくれたのは……嬉しい。
……しかし、状況が状況だ。
秋在に無理は、させたくない。
だが、秋在本人が楽しみにしているのなら……その気持ちに水を差したくないというのも、本心。
ふと、秋在を見つめる。
いつの間にか秋在は目を閉じていて、眠っているようだ。
だから冬総は、ポツリと呟く。
「……何で、サンタなんて捕獲しようと思ったんだよ……」
返事は、期待していない。
――はずだったのに。
「――フユフサに、プレゼント……しようと、思ったから」
意外にも。
秋在から、返事があったのだ。
しかも……想像の範疇を越えた、驚きの返事が。
「……俺の、ために……?」
冬総にプレゼントを渡すために、どうしてサンタを捕獲しようとしたのか。
その因果関係は、イマイチ分からない。
しかし……体調を崩してまで成し遂げようとしたことが、冬総を想ってのことだったのなら……。
「秋在……キス、したい。……しても、いいか?」
――冬総が喜ばないはず、ない。
本当は、自分のために体調を崩してなんて、ほしくなかったが。
それでも喜んでしまうのは、人として、仕方ないだろう。
「……ほっぺ、なら……っ」
呟く秋在の頬に、キスを落とす。
頬だけでは飽き足らず……瞼や、鼻先に。
そしてそのまま、首筋へ。
「ひゃ、ぁ……っ」
そこで冬総は、ふと、違和感に気付く。
「秋在……? キスされただけで、勃った……のか……?」
「……っ」
冬総の体に、秋在の逸物が当たっている。
しっかりと、熱を持ちながら。
「……フユフサぁ……っ」
甘えるような、縋りつくような、声。
秋在に対して、ささやかにしか用意できなかった理性は。
――あっという間に、霧散した。
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