102 / 182

7 : 5

 無機質な電子音が、部屋に響いた。  体温計の音だ。  秋在は体温計を確認した後、冬総へ渡した。 「微熱」 「そっか。良かった」  ひとまず、悪化はしていないらしい。……安心、ということだ。  薬を飲んだ秋在は、そのままベッドへ横になった。  ……当然、冬総を引っ張って。  そして当然、冬総は秋在を拒まない。  冬総は秋在のことをしっかりと抱き締め、頭を撫でた。  すると、気持ちよさそうに目を細めた秋在が、ポツリと呟いたのだ。 「――明後日のクリスマスデート、楽しみ……っ」  それは冬総にとって、驚きの言葉だった。 「は……? 悪化するかもしれないし、そもそも病み上がりだろ?」 「だからなに?」 「俺は……中止だと、思ってたんだが……?」 「何で?」  秋在は顔を上げて、冬総を見つめる。 「一番の先約だよ。反故になんてしない」 「だけど――」 「約束通り、うちに来てね?」  それは、冬休みが始まる前の……ある日の、放課後。  冬総は秋在に、クリスマスデートのお誘いをしていた。  普段の行動がまったく読めない秋在のことだ。クリスマスにはなにか、特殊な予定を入れているかもしれない。  ダメもとで訊いてみたのだが、答えはまさかの、快諾。  冬総は秋在と、クリスマスデートをするという約束ができた。 (てっきり俺は……サンタ捕獲作戦ってのに夢中で、忘れられてるかと思ってたんだが……)  勿論、秋在がクリスマスデートを楽しみにしていてくれたのは……嬉しい。  ……しかし、状況が状況だ。  秋在に無理は、させたくない。  だが、秋在本人が楽しみにしているのなら……その気持ちに水を差したくないというのも、本心。  ふと、秋在を見つめる。  いつの間にか秋在は目を閉じていて、眠っているようだ。  だから冬総は、ポツリと呟く。 「……何で、サンタなんて捕獲しようと思ったんだよ……」  返事は、期待していない。  ――はずだったのに。 「――フユフサに、プレゼント……しようと、思ったから」  意外にも。  秋在から、返事があったのだ。  しかも……想像の範疇を越えた、驚きの返事が。 「……俺の、ために……?」  冬総にプレゼントを渡すために、どうしてサンタを捕獲しようとしたのか。  その因果関係は、イマイチ分からない。  しかし……体調を崩してまで成し遂げようとしたことが、冬総を想ってのことだったのなら……。 「秋在……キス、したい。……しても、いいか?」  ――冬総が喜ばないはず、ない。  本当は、自分のために体調を崩してなんて、ほしくなかったが。  それでも喜んでしまうのは、人として、仕方ないだろう。 「……ほっぺ、なら……っ」  呟く秋在の頬に、キスを落とす。  頬だけでは飽き足らず……瞼や、鼻先に。  そしてそのまま、首筋へ。 「ひゃ、ぁ……っ」  そこで冬総は、ふと、違和感に気付く。 「秋在……? キスされただけで、勃った……のか……?」 「……っ」  冬総の体に、秋在の逸物が当たっている。  しっかりと、熱を持ちながら。 「……フユフサぁ……っ」  甘えるような、縋りつくような、声。  秋在に対して、ささやかにしか用意できなかった理性は。  ――あっという間に、霧散した。

ともだちにシェアしよう!