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春晴家からの、帰宅途中。
ポケットの中に入れていたスマホが、振動した。
(母さんか?)
おつかいのメッセージかと思い、冬総はすぐさまスマホを確認。
そこに表示されていた名前は、母親ではなかった。
『きをつけてね』
冬休み中。
ただの一度も連絡をくれなかった、恋人だ。
きっと……大量のリンゴを持った母親から、冬総の帰宅を知らされたのだろう。
自分の意思か、母親にそう送るように言われたのかは、分からない。
それでも、自分の身を案じてくれているメッセージに、冬総は悶えるしかなかった。
「……あぁぁ、可愛すぎる……ッ!」
今すぐUターンして、力の限り抱き締めたい衝動。
しかし、それを悟らせてはいけない。……純粋に、カッコ悪いからだ。
『お大事に』
それだけ返信し、冬総は真冬の空を見上げた。
「はぁ。……会いてェ……ッ」
白い息とともに。
冬総の言葉は、寒空の下で溶けていった。
そして、二日後。
――クリスマス、当日。
インターホンを鳴らし、冬総は春晴家の玄関扉を開ける。
すると、そこには目当ての人物。
「おはよう、フユフサ」
外出準備万端な秋在が、座っていた。
微笑んだ秋在を見て、冬総も穏やかで優しい笑みを浮かべる。
これから、楽しいクリスマスデート。
――その、はずだった。
「――『微熱がなかなか下がらない』って、お義母さんから聴いてるからな」
立ち上がった秋在の体を、回れ右。
靴を脱がせて、そのまま部屋に戻るよう、背中を押す。
……お察しの通り。
――秋在は、熱を下げることができなかったのだ。
大きな荷物を持った冬総に背中を押される秋在は、背後へ向かって訊ねる。
「フユフサは、ボクとイルミネーション……見たくないの?」
「そういう訊き方は反則だぞ。秋在のことが大好きだからこそ、この対応なんだからな? むしろ、惚れ直してほしいくらいだ」
秋在は踏ん張って、力一杯、抵抗の意を示した。
しかし、冬総には無効。
押すのが駄目ならと、冬総は小柄な秋在を抱き上げた。
「極悪非道なトナカイだ」
「愛情と善意溢れる恋人と言ってもらおうか。……あと、そんな悲しい言葉じゃなくて『好き』って言ってほしい。……秋在、好きだぞ」
「ボクも好きだけど……今はいつもより、好きじゃない」
家に、両親は不在。これも、秋在の母親から確認済みだ。
クリスマス当日は、春晴家へ秋在を迎えに行く。
秋在とのそんな口約束もあったが、冬総は今日……母親から秋在の看病を頼まれていた。
部屋に戻されても、秋在は着替えようとしない。
そんな秋在を、冬総は無理矢理着替えさせた。
……前回のこともあるので、直視しないように。
それを、秋在はひねくれて捉えたらしい。
「顔も見たくないの?」
「そういう訊き方は反則だって言ったろ。……色々と、大人の事情があるんだよ……ッ」
「ボクの方が大人なのに」
しょんぼりと、秋在が落ち込んでいる。
それでも冬総は秋在の体を見ず、頭をポンと、撫でた。
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