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抵抗、虚しく。
秋在は、ベッドに戻された。
わざとらしく頬を膨らませている秋在を見て、冬総は眉尻を下げる。
「あのな、秋在? 俺は別に、嫌がらせでこんなことしてるんじゃないんだからな?」
「それくらい、分かってるよ」
「ならその可愛いふくれっ面をどうにかしてくれ……」
それでも、拗ねている態度は変わらない。
ならばと、冬総は持って来ていた大きな荷物を手渡した。
秋在の関心が、やるせない怒りからプレゼントへと変わる。
「……これって、クリスマスプレゼント……?」
「そうだよ。……本当は、もっと別のモン用意したかったんだぞ? なのに、秋在が風邪ひいたから……心配になって、気付いたら頭の中が防寒具一色になっちまった」
包みを開け、秋在はプレゼントを見た。
中に入っていたのは、コートと手袋。
秋在はいそいそと手袋をはめ、コートに袖を通す。
……サイズは、ピッタリだ。
「指輪のときも思ったけど……ボク、フユフサになんのサイズも教えてない」
「は? 秋在のことなら目測で分かって当然だろ?」
「極悪非道なトナカイじゃなくて、サンタさんだったんだ」
すぐにコートを脱がし、手袋も外させる。
袋の中にプレゼントを戻した後、冬総は秋在を再度、ベッドへ寝かせた。
床に置かれたプレゼントを眺めながら、秋在は身をよじっている。
「クリスマスデート……そのプレゼントとマフラー巻くから、一緒に行こう?」
「駄目だ。外には出さないぞ」
「……イルミネーション、も……っ?」
「……ッ。だ、駄目だからな……ッ!」
上目遣いで、秋在は冬総を見つめた。
秋在は冬総にとって、唯一かつ最大の弱点。
ただ秋在が声をかけるだけでも、冬総にとってはクリティカルヒット級な攻撃へと変わる。
それほどまでに秋在命な冬総にとって、上目遣いはかなり効果的だ。
冬総は床に座り、秋在から一瞬だけ目を逸らす。
すると、秋在が攻撃の仕方を変えた。
「フユフサ、よく考えてほしい。……このまま、ボクをこの部屋に閉じ込めるのは……ウイルスの思うつぼだよ。ボクらは、風邪の菌に弄ばれてる。ハッキリと見えもしない微熱なんてものが描いた予定調和を、ただなぞってるだけ。……そう思わない?」
「な、何だよ、いきなり……?」
「ボクは、人間には人間にしかできないことを遂行すべきだと思う。ボクらには自由に生きる権利があるのに、それを行使しないなんて……そんなの、ボクらに自由を与えるために戦ってくれた偉人に、申し訳が立たない」
秋在の言いたいことは、分かるようで分からない。
だが、ハッキリと分かるのは……おそらく、屁理屈を言っているということだけ。
冬総は眉を寄せて、秋在を見た。
「……じゃあ、訊くけどさ。……秋在が思う【人間にしかできない、人間が行使すべき自由意思】って、何だ?」
冬総の問いに、秋在は……。
「…………い」
モゴモゴと、毛布の下で応える。
「……ン? ごめん、秋在。なんて言ったか、聞こえなかった。……もう一回、いいか?」
冬総は秋在へ顔を近付け、耳を澄ませた。
そしてようやく、秋在の答えが聞こえる。
「――フユフサがくれた、プレゼント……早く、使いたい……っ」
「……ッ!」
「ねぇ、フユフサ。……どうしても、ダメ……っ? ボクとデート、したくない……? デートが楽しみなのって、ボクだけ……?」
「ぐ……ッ!」
――小難しい、屁理屈。
――からの……【デレ】という概念を超越した、甘え。
自分とは違う価値観を持つ秋在に惹かれ、そんな秋在の愛らしさで更に深みへとはまっていった冬総にとって。
「……ゆ、夕方になって……熱が、下がってたら……か、考えとく……ッ」
――効果は抜群だ。
この表現以外に、今の冬総へ当てはまる言葉は。
……きっと、ないだろう。
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