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外はすっかり、日が沈んでいる。
風が吹くと、体の表面にある温度が、根こそぎ持っていかれそう。
そんな、まさに冬らしい外を。
「――クリスマスのイルミネーション……ボク、初めて見る」
――冬総は、秋在と並んで……歩いていた。
それは……秋在が眠り、目覚め、夕方になった頃。
秋在はそそくさと、熱を計った。
若干だが、朝よりも熱が下がっていた秋在は……当然、冬総に強請る。
――イルミネーションを見に行こう、と。
そして、とことん秋在に弱い冬総は……こうして、秋在と一緒に出掛けてしまった。
……ということだ。
予定では、デートの行き先はもう少し遠出だった。
見る予定だったイルミネーションも、勿論……ここから少し離れた、大きなもの。
だが、それはさすがに断念したのだ。
「イルミネーションって言っても、商店街の真ん中にあるでっけェ木に、電飾をグルグル巻きつけただけだけどな?」
学校で、秋在は『イルミネーションを見たことがない』と言っていた。
だからこそ冬総は、大きくて立派なイルミネーションを見せたかったのだ。
そんな寂しさから、冬総は思わず、ムードの欠片もない発言をする。
けれど、秋在は気にしていない。
「どう電飾を巻きつけるか。どうお客さんに見てもらうか。……それを誰かが考えて、こうして準備した」
マフラーから口元を出し、秋在は笑う。
「だったらそれは、凄くステキなこと」
手袋をはめた手で、秋在は冬総の手を握る。
「誰かの手間と努力を、そんな風に言うのは悪い子。……悪い子なフユフサには、サンタさんが来なくなっちゃうよ?」
見せたかったイルミネーションとは、かなりランクが違う。
それでも……秋在にとっては、立派なイルミネーション。
自分の言い方は失礼だったかもしれないと、冬総は猛省する。
「でも、フユフサは沢山徳を積んできたから……サンタさん、来るよ」
冬総が落ち込んだのは、サンタさんが来ないからだと。
そう勘違いしたのか、秋在はすかさずフォローをいれる。
「サンタ……本当に来てくれるかな。朝起きても、枕元にプレゼントなかったけど……」
「ボクも朝はなかった。でも、サンタさんは来た。だから、フユフサにもサンタさんは来る。……サンタさんにとって、クリスマス当日は忙しいんだよ」
「秋在がそう言うなら、もう少し待ってみるか」
サンタ――冬総の母親が、いそいそとプレゼントを用意するとは、思えないけれど。
有り得ない光景を想像すると、自然と笑みが浮かんだ。
「あっ。あっちの方、人が少ない。……フユフサ、早くっ!」
「走るのは駄目だぞ、秋在……ッ」
買い物客で賑わう商店街には、イルミネーション目当てじゃない人も多くいた。
そんな中、秋在はイルミネーションツリーの近くに、人の少ないポイント見つけたらしい。
冬総の腕を引こうとしたが、病人を走らせたくない冬総は、秋在の手を引いてストップをかける。
「……分かった」
秋在は止められて不満そうだが、どこか嬉しそうだ。
……おそらく、手を強く握られたことが嬉しかったのだろう。
秋在はそのまま、冬総の腕に自身の腕を絡める。
「……寒いのか?」
「フユフサがね」
秋在は口角を上げて、冬総を見つめた。
(俺に対する善意かよ……ッ! クソ、可愛いな……ッ!)
秋在はただ、腕を絡めたかっただけ。
しかし秋在限定でチョロい冬総は、そんな秋在にも律儀にときめいた。
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