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誰でも想像できる、なんてことないイルミネーション。
それでも、通りかかったカップルや家族なんかは、写真を撮っていた。
そういえば、と、冬総は考える。
(――俺、秋在と二人で撮った写真とか……持ってねェ、よな……?)
気付くと同時に、冬総は秋在を見下ろした。
秋在は顔を上げて、イルミネーションツリーを眺めている。
「キラキラ、ピカピカ……これが、電子信号。この配列は、もしかして……宇宙との、交信……?」
秋在は秋在なりに、この場所を楽しんでいた。
イルミネーションの光に照らされた秋在が、普段以上に輝いて見える。
――思わず、冬総はスマホのシャッターを押した。
パシャリ、と、音が鳴る。
瞬時に、秋在は冬総を見上げた。
「……撮った?」
「ごめん、撮った」
「ハクい? マブい?」
「ハク……何だ、それ……? ……可愛いよ、凄く」
秋在はポケットに手を入れて、モゾモゾと動かす。
……が、どうやらスマホを家に忘れてしまったらしい。
もう一度、冬総を見上げる。
「フユフサの写真、撮って。送って」
「え……? 一人で撮るのか? さ、さすがに恥ずいぞ……?」
「ボクは一人で映ってるよ?」
「いや、それとこれとは……同じだけど、だいぶ違うだろ……」
秋在が隣にいるというのに、自分の写真を自分で撮るなんて。
考えるだけで恥ずかしい光景を、ふと、思い直す。
そして。
「――一緒に、撮らないか?」
――冬総は、勇気を出してみた。
秋在の瞳が、驚いたように丸くなる。
どうやら、二人で撮るという発想はなかったらしい。
「……いい、の……?」
「むしろ、俺は『お願いします』って言いたいくらいだ。……いや、今言うわ。お願いします、一緒に撮らせてください」
「必死だね。変なの」
そう言うも、秋在はマフラーを少しだけ下げる。
「分かった。……お願い、されるね」
そのまま、冬総に身を寄せた。
冬総はスマホをしっかりと握り、カメラを向ける。
パシャリ、と、音が鳴った。
「……あんま、イルミネーション入らないな」
初めて撮った、二人の写真。
そこにはあまり、イルミネーションは写っていない。
「うん。でも、フユフサとボクがいる」
「そうだな。俺たち二人の写真だ」
すると、秋在はマフラーで口元を隠した。
「……口角上がっちゃうのって、薬の副作用かな……?」
「えっ、あ……どう、だろうな? ……でも、それ言われた俺も……口角、上がってきた……」
「そっか。お揃いなんだね」
目を細めて、秋在は冬総を見上げる。
そして、ポツリと呟いた。
「――フユフサフォルダの、記念すべき百枚目だ」
「…………え? なんて?」
秋在の言葉に、冬総は驚愕する。
――九十九回も、写真を撮られた記憶がない。
秋在の寝顔をこっそり撮ったことはあるが……どうやら、上には上がいるらしい。
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