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8章【合戦前エントロピー】 1
冬休みが開け。
最初の登校日を、冬総は迎えていた。
――激動の、登校日を。
「――どうも~っ! 転校生の四川 季龍 です! 後々ウワサされるのはマジ勘弁なんで先に言っとくっすけど、オレは恋愛対象が【男】で~すっ!」
ヘラヘラと笑みを浮かべる、転校生。
――恋愛対象が【男】だとカミングアウトした【男】を見て。
クラスの誰もが、目を丸くする。
「よろしくで~すっ!」
ただ、二人。
――四川季龍という、張本人と。
(秋在……今日くらいは、学校に来てくれたって良かったじゃねぇか……)
――恋人が登校してきていないことを嘆く、この男。
――夏形冬総を、除いて。
朝のホームルームが終わり、最初の休み時間。
女子に囲まれながら、季龍は笑っていた。
「――いや~! もっとケーベツされるかと思ってたんだけど、このクラスってマジ、カンヨーだな!」
季龍を囲っている女子も、同じように笑っている。
「『寛容』って、なにそれ~」
「確かに、自己紹介でいきなりカミングアウトはビックリしたけど……別に、ね~?」
「……ンン? それって、どゆこと?」
女子の返答に、季龍は眉を寄せた。
季龍は、今日転校してきたばかり。
――つまり、知らないのだ。
「あそこに座ってる、金髪のイケメンいるでしょ? あの人もね、そうなんだよ~」
女子のうち、一人が……すっ、と、指を指す。
このクラスで、金髪の生徒。
それは……冬総以外に、いなかった。
女子が指を指した方向――冬総を見て、季龍が目を輝かせる。
「はっ? マジ? よっしゃ、お仲間発見じゃ~ん! 早速声かけてこよ~っと!」
「あ、ちょっと、四川くん……!」
女子の制止も聞かず。
季龍は素早く、冬総の席へ近付いた。
……ちなみに。
今しがた繰り広げていた女子と季龍の会話は、冬総にも聞こえるほどの声量だった。
しかし、冬総は聴いているようで、まったく聞いていない。
……頭の中は、秋在のことでいっぱいだったからだ。
そんなことは露知らず、季龍は冬総に声をかけた。
「――よっす!」
「――は?」
突然。
視界に、季龍が入ってきた。
スマホを眺めてボーッとしていた冬総は当然、驚く。
だが、季龍はそれすらも気に留めていない様子だ。
「オレ、四川季龍! アンタの名前は?」
「え、っと……夏形冬総、だけど……?」
――確か、朝のホームルームで紹介されていた転校生だったような。
ぼんやりと、冬総はそんなことを考えた。
冬休み明けの、登校初日。
久し振りに制服を着た秋在に会えると思っていた冬総は、学生にとって一大イベントである【転校生】にすら、興味を持っていなかった。
(まぁ、同じクラスだからな。……名前くらい、覚えておくか)
そして、秋在に教えなくては。
その程度の関心で、冬総は季龍と自己紹介を交わした。
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