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――と、思っていたのに。
「――でさ! そしたらソイツ、なんて言ったと思う? ……『男が好きなら、あのゴリマッチョ外人も好きなのかと思ったわ』だってさ! 逆にお前、女なら見境ないのかよって感じだよな!」
何故か、四川季龍という転校生は。
――休み時間ごとに、冬総へ声をかけてきた。
別に、面倒というわけではない。
話しかけられたなら、応じる。それが冬総の性格だ。
だが、どうして自分にここまでしつこく話しかけてくるのか……それだけが、分からなかった。
……しかも、何故かやたらと【同性愛者あるある】といったネタを、チョイスして。
(何でだ? コイツ、朝は女子と話してたよな……?)
今は、昼休み。
冬総はお弁当を食べながら、季龍の話に耳を傾けていた。
「ちなみに! オレは、マッチョなし! だけど、極端に細すぎるのもなしだな~。基本的には……選り好み? とか、しないんだけどさ! あ~、でも……年上すぎるのとか、年下すぎるのとかもなしかな~……?」
「お、おう。そっか」
「アレレ? もしかして、引いてる? ……っかし~な? 冬総はオレと同類だって聞いたんだけど?」
そこでようやく、冬総は会話の意味に気付く。
(誰かが、コイツに『夏形くんはホモだよ』とか言ったんだな)
別に、秋在と付き合っていることは隠していない。
少し前までは、隠していたが……今はむしろ、どんどん訊いてくれ状態だ。
だからこそ、季龍にそのことをバラされても気にしなかった。
……しかし。
「なぁ、四川。……俺は、ホモじゃねぇよ」
「はぁ? えっ、もしかしてオレ……転校初日から騙された感じ?」
「いや、騙されたとかじゃなくて。……俺は、好きになった相手がたまたま男だったってだけだ。だから、秋在以外の男は好きにならねェんだよ。……女もな」
「『アキア』?」
季龍は、小首を傾げた。
「冬総はその、アキアって子が好きなのか! へ~、なるほどな~! ……で? どこのクラスにいるんだ? その、アキア君って子!」
「お前がさっき、勝手に座ろうとした俺の隣の席だよ」
「冬総がさっき、オレの腕をへし折ろうとしてでも座るのを阻止しようとした席の子か?」
季龍は昼休みになって、冬総と一緒にご飯を食べようとしたのだが。
その際、季龍はなにも知らずに秋在の席へ座ろうとしたのだ。
それを、冬総は良しとしなかった。
秋在の椅子に触ろうとした季龍の腕を掴み、睨み上げ、阻止したのだ。
「へ~、なるほどな! メッチャ好きなんだな、アキア君のこと! 片想い? 告白はしたのか?」
「付き合ってるんだよ」
「えぇっ、マジか~!」
季龍は驚きつつも、パンをパクパクと食べ進めている。
「オレさ! 前の学校で【男が好き】ってバレて、なんかメチャクチャ白い目で見られたんだ!」
「……まさか、それが理由で?」
「そ! まさかの、それが理由で転校!」
「そうだったのか……」
一歩間違えたら、冬総だって他人事ではない。
このクラス……果ては、冬総の周りに集まる人々が、寛容なだけ。
(俺も、それが怖くて言えなかったしな……)
やはり、どこまでいってもそういう好奇の目は、避けられないらしい。
――しかし、季龍は。
「――だからさ、冬総! オレは冬総のこと、怯えずに全部オープンにしてて、カッコいいって思うぜ!」
――笑顔で、冬総を賞賛した。
その、言葉は……。
――最大級の、褒め言葉に聞こえた。
「……格好いいのは、秋在だ。俺じゃねぇよ」
「アキア君ってのはカッコいい奴なのか!」
「は? 可愛いに決まってんだろ、馬鹿か」
「うっわ、理不尽! このイケメン冬総様をそこまで骨抜きにしたとか、どんな奴なのかメッチャ気になる~!」
お仲間だと誤解されたのは、釈然としない。
だが、それでも。
――四川季龍という転校生は、いい奴なのかもしれない。
冬総はそう、評価を改めた。
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