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 そして、翌日。 「――はじめまして、アキア君! オレは四川季龍! 転校生だぜ! 仲良くしてくれよな~!」  ――秋在と季龍が、出会った。  秋在が登校してきて、すぐ。  季龍は冬総が秋在に挨拶するよりも先に、秋在へ声をかけた。  秋在は、季龍を見ない。  ――そして、返事をした。 「――何で」  ――そう、バッサリと。  秋在は季龍を見ずに、椅子へ座る。 「誰。何でボクの名前知ってるの。気持ち悪い。どっか行って」 「ンンン?」  秋在の態度に、季龍は腕を組んだ。  そして、隣に座っている冬総を振り返る。 「オイ、冬総? 話が全然違うぞ~?」  季龍が声をかけた冬総に、秋在はチラリと視線を送った。 「秋在、昨日教えたろ? 転校生の、四川季龍。下の名前だけ、話のはずみで言ったって……夜にメッセージ送ったやつ」 「ふぅん」  短い相槌を打った後、秋在はおもむろに、鞄からノートを取り出す。  そのまま、真っ白なページを開いた。 「フユフサが名前を教えたからって、ボクはキミに教えてない。教える気もない。だから、仲良くしない。終わり」  秋在はもとから、他人と関わりを持ちたがらないタイプだ。  そのことは、冬総も身をもって知っている。 (自分のこと、理解する気がないって……秋在はそう、思ってるんだろうな)  冬総も、秋在からそう言われて……一度は、拒絶された。 (それが今では……恋人同士、かぁ……)  思わず、口角が上がりそうになる。  自分だけは、秋在にとって特別。……そう、再認識したからだ。  冬総が内心で喜んでいる中、季龍はめげていなかった。 「じゃあ、どうやったら仲良くしてくれるんだよ~!」 「しない」  秋在は真っ白いページに、グリグリと色を塗っている。 「ボクは、ボクのことを理解する気が無い人に割く時間を『勿体無い』と思ってる。ボクは時間をムダにしない主義」  やはり、秋在は根本的に変わっていない。  懐かしいような気持ちになり、冬総は二人のやり取りを眺める。  それでも、季龍はやはり。 「じゃあ、アキア君のことを理解できるように頑張る! だから、仲良くしてくれると嬉しいな~!」  ――めげなかった。  そして、その台詞は……。 (――俺とほとんど、同じ台詞……ッ!)  さっきまでの嬉しい気持ちが、一変。  冬総の心が、不安一色で染められる。  このまま、秋在が季龍に心変わりしてしまったらどうしよう。  冬総がそう、案じたときだ。  ――バキッ、と。 「――『終わり』って言葉すら理解できてないのに、囀らないで。舌を切られないと、自分が『五月蠅いんだ』って自覚もできないの」  ――秋在が、鉛筆を折ったのは。  季龍からのコンタクトを、秋在は一蹴する。  二人の様子を、冬総は眺めた。 (……なんか、雲行きが怪しいような……?)  そんな、月並みな感想だけを抱いて。

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