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翌日。
「アキア君、おっはよ~! な~、今日こそオレと仲良くしてくれよ~! アキア君の好きなものってなに? ……おっと! 冬総以外で頼むぜ~?」
季龍はめげずに、秋在へ話しかけていた。
あれだけ突き放されたのに、どうしてそこまで話かけることができるのか。
秋在と喧嘩したばかりの冬総にとっては、羨ましくて仕方なかった。
しかし、秋在は無視をしている。
季龍がどれだけ話しかけても、秋在はノートへの落書きをやめなかった。
「クッソ~! な~、冬総~! お前の好きな奴、ドライすぎね~?」
「秋在は全然、ドライとかじゃ……ない、んだけどな……」
泣きついてきた季龍を、さり気なくかわす。
冬総にとって、季龍は友達だ。
意味もなく突き放したりは、したくない。
しかし……秋在だって大切なのだ。
冬総がどちらの味方もできずにいると、その隙を、季龍は狙った。
「キラ~ンッ! 隙ありだぜ、冬総~!」
「うぉッ!」
ガバッ、と。
季龍は冬総に、抱き着いた。
慌てて引き離そうと、冬総が季龍の肩に手を置く。
すると、昨日と同じ音が……冬総たちの鼓膜を震わせた。
――バキッ、と。
――秋在が、鉛筆を折った音だ。
不穏な音に気付き、季龍がそっと……冬総から離れる。
「……オレ、怒らせた?」
「いや……怒らせてるのは俺だ」
「へぁ? そうなのか?」
これは、おそらく……。
『どうして自分と喧嘩しているのに、他の奴と仲良くしてるの』という、純粋な怒りだろう。
それは……【嫉妬】だなんて可愛いものには、到底思えない。
そう解釈した冬総は、ガックリと肩を落とす。
(秋在は、俺が四川の味方をすると嫌がるんだよな。……たぶん)
かと言って、やはりどうしたって、友人を非難はできない。
季龍に冷たくしたら、秋在の機嫌は直るかもしれないが……それは根本的な解決ではないだろう。
(どうやって仲直りしようか……)
秋在と季龍の関係も、勿論、心配だ。
しかし、冬総にとって最重要人物は秋在ただ一人。
そこは絶対に揺るがないのだ。
(ヤッパリ、秋在と喧嘩するのが一番しんどい……)
再認識し、冬総はとことん落ち込む。
どれだけ視線を送っても、一切返ってこない。
それがまた、切なかった。
そんな冬総を見て、季龍は眉尻を下げる。
「……冬総? どうした? 落ち込んでるのか?」
「いや、大丈夫だ……」
「ふ~ん?」
生返事をした冬総を、季龍は見下ろす。
冬総は机に突っ伏し、ぼんやりと考える。
(本人相手に『お前との仲を取り持とうとしたら、盛大に喧嘩しました』なんて……言えるワケないだろ……)
そうして、冬総が頭を悩ませている間にも。
秋在はずっと、ノートに絵を描き続けていた。
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