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秋在と一言も話せないまま、放課後へ。
「冬総~! 途中まで一緒に帰ろうぜ~!」
帰りのお誘いをかけてきた季龍に、冬総は手を上げる。
「悪い、四川。帰りは秋在と、って決めてるんだ」
「うっわ、ノロケかよ! 羨ましいな~! リア充爆発しろ~! ……って、アレ? お前、置いてかれてね~か~?」
「はッ!」
季龍の言う通り。
秋在はサッサと、教室から出て行こうとしていた。
慌てて鞄を引っ掴み、冬総は立ち上がる。
「秋在、秋在! ごめん、一緒に帰りたい……!」
秋在は当然、無視。
(クソ……秋在に無視されるの、メチャクチャキツイぞ……ッ)
そもそもが自分のせいとは言え、秋在と触れ合えないのは精神的なダメージが大きすぎる。
これは、風邪をひいた秋在に触れないのとは、全然別種の苦しさだ。
それでも、冬総はめげなかった。
「……秋在。……昨日は、本当に……ごめん。俺が悪かった。……仲直り、したい」
「…………」
「なにか、してほしいこととか……そういうの、ないか? ……俺、秋在のためなら何でもする!」
生徒玄関で靴を履き替えながら、秋在は顔を上げる。
冷たい眼差しが、冬総へ向けられた。
「『何でもする』って、簡単に言わない方がいい。ボクが悪人だったら、フユフサに法を犯せって言うかもしれない。最悪、死を望むかもしれない」
「秋在の願いだったら、痛いことも怖いことも何だってできるぞ」
これは決して、見栄を張ったわけではない。
冬総は本気で、秋在からの頼みは何でも遂行するつもりなのだ。
予想外の返事だったのか、秋在は目を丸くしている。
(……ん? 俺、なにか変なこと言ったか……?)
秋在なら、冬総の気持ちを知っていると思っていた。
だからこそ、秋在の反応に冬総も驚いてしまったのだ。
見つめ合うこと、数秒。
「……じゃあ、うちに来て」
先に口を開いたのは、秋在だった。
「ボクの部屋で……【何でも】言うこと聞いて」
秋在の声は、やはり……冷たい。
それでも、これは仲直りのチャンスだ。
「分かった……ッ!」
冬総は頷き、秋在と並んで歩く。
おそらく……秋在はまだ、相当怒っている。
向けられる瞳は冷たいし、声だっていつもより低い。
それでも、今は一緒にいることを望まれた。
そして、部屋に上がることも許可されたのだ。
(よし……! 絶対、今日中に仲直りしてみせる……!)
なにを頼まれるかなんて、分からない。
検討だってついていなかった。
だとしても、冬総の気持ちに嘘はない。
冬総は秋在の隣を歩きながら、仲直りの決心を固めたのであった。
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