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 結局。  秋在に百回ほど謝罪を求められた冬総は、それら全てにきちんと応え。 「……ばいばい」  ――秋在と、仲直りを果たした。  玄関まで冬総を見送り、キスをした後、手を振られる。  この挨拶は、秋在の機嫌が直っているという証拠。 「秋在、ありがと。……また明日」  そう言い、冬総は春晴家を後にした。  自宅に戻った冬総は、自室の床に鞄を放り投げた。 (そうか……。秋在が怒ってたのは……俺の発言が、秋在に浮気を薦めたように聞こえたからだったのか……)  冬総が秋在に、そんなことを言うはずはない。  しかし……秋在を一番に愛している冬総が突然、秋在以外の男を擁護したのだ。  季龍のことをなにも知らない秋在からすると、不信感以外のなにものでもなかったのだろう。  男が好きだからといって、それは【男なら誰でも好き】ということとは、イコールにならない。  それは秋在だって、分かっているはずだ。 (けど、確かに俺の言い方は悪かったなァ……)  季龍は男が好きで、それが原因の転校をした。  だから仲良くしてあげてほしいだなんて……聞きようによっては、誤解させて当然だろう。 (四川も、秋在にやたらとかまってたし……俺らが手を組んでるって勘繰らせても、仕方ないか……)  冬総はベッドに寝転がった後、一度。 「――よしッ!」  強めに、自身の両頬を叩いた。  翌日。 「アキアく~ん! 今日こそ、オレと仲良くしてみないか~?」  今日も今日とて、季龍は秋在に絡んでいた。  昨日までの冬総は、それを傍観していたが。 「待て、四川」  今日の冬総は、今までと違う。  秋在と季龍の間に入り、あろうことか……季龍を、止めたのだ。  驚いたのは、季龍だけではない。  秋在までもが、冬総を見上げていた。 「――友達ならいいけど、それ以上は駄目だからな」  冬総の台詞に……二人だけではなく、教室にいる生徒までもが、言葉を失くす。  最初に口を開いたのは……当然。 「――イヤ、アキア君ガチ勢すぎるだろ!」  ――季龍だった。  しかし、冬総は負けない。 「うるさいな。不安要素は取り払うに限るだろうが」 「『不安要素』って……オレが? アキア君がオレに心変わりするかもって意味なのか? ンン?」 「なに馬鹿なこと言ってるんだお前はッ! それは断じてありえないだろうがッ!」 「何だコイツ、メチャクチャだぞ~!」  ギャイギャイとやかましく、冬総と季龍が口論をする。  そんな中……チラリと、冬総は秋在を見た。  すると、何故か。 (――に、睨んでいる……だと?)  秋在は、冬総を睨んでいた。 (な、何でだ? こういうことじゃないのか?)  自分がどうして睨まれているのか、冬総には分からない。  しかし、秋在の視線に気付いていない季龍は……冬総とのじゃれ合いを続行した。 「大丈夫、ダイジョ~ブ! アキア君を奪ったりしないって! ただオレは、冬総の好きなアキア君と仲良くなってみたかっただけで――」 「そ、そそ、そのくらい分かってたっつのッ!」 「イヤ動揺の仕方がおかしいだろって~!」  もう一度、秋在に視線を移す。  いつの間にか……秋在はノートへのお絵描きに戻っていた。 (お、怒ってる……のか? それとも、単純にこの小競り合いっぽいやり取りに興味がなくなった……? ど、どっちだ……ッ?)  やはりまだ、冬総は秋在の考えていることを全て理解できていないらしい。  冬総は内心で慌てふためきつつ、ホームルームが始まるまで……季龍と言い争い続けた。

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