122 / 182

8 : 12

 放課後の、教室に。  一人で残る生徒がいた。  その生徒は、クリーム色の瞳をノートへ向けている。  すると、その瞳が……動いた。 「――アキア君、お待たせ~!」  教室の扉が開け放たれると共に。  男子生徒が一人、教室へと入ってきたからだ。  教室に残っていた生徒――秋在は、男子生徒を見つめている。  クリーム色の瞳は、恋人へ向けるものとは違い……とても、寒々しい。  そんな視線を一身に受けている男子生徒――季龍は、秋在と違い……笑っている。 「まさか、机の中に手紙が入ってるなんて思わなかったから、ビックリしたわ~、マジで!」  そう言いながら秋在へ近付く季龍の手には、一枚のメモ帳が握られていた。 「ってか、アキア君ってオレの席憶えててくれたんだね~! オレ、手紙が入ってたことよりもそっちにビックリしたわ!」  わざとらしいほどに、季龍は嬉しそうだ。  一人はしゃぐ季龍の姿を、秋在は変わらず……冷めた目で見ている。  そして……ようやく、口を開いた。 「――春晴」  ――瞳と同じく、冷たい声で。 「ボクは春晴。名前で呼ばないで」  秋在の言葉は、どこまでも冷え切っている。  それでも、季龍は笑みを消さなかった。 「やっと自己紹介してくれたなっ! 前はあんなに名前教えるの嫌がってたのにさ~! ……まっ、あらためて……よろしくってことで――」 「よろしくするために教えたんじゃない」  握手を求めようとした季龍を、秋在は見つめる。 「手切れ金の代わり」  ――まるで、睨むように。  季龍は、手を引っ込める。  そしてそのまま……小さく、嘆息した。 「……はぁ。相変わらず、冬総以外には冷たいんだな~。……って、アレ? 冬総は? 一緒じゃないの?」  視線を秋在から逸らした季龍は、あることに気付く。  ――冬総の席に、鞄がないのだ。  てっきり、秋在がいるのなら冬総もいると……季龍はそう、思っていた。  冬総がいないということは、この教室には秋在と季龍……二人だけ。  その状況は、さすがに予想していなかったのだ。 「必要無いから、先に帰らせた」  季龍はふと、昨日と今朝のことを思い出す。  ――冬総と秋在は確か、喧嘩をしていた……と。  だからてっきり、帰りが別なのはそれが原因だと思った。 「へ~? それって、もしかしてケンカが続いて――」 「でも、今日だけ」  その考えを、秋在は一蹴する。  しかし、冬総がいないということは事実だ。  そして冬総がいない、ということは……秋在の隣の席は空いている、ということ。  立ち話もなんだと思った季龍は当然、冬総の席に座ろうとした。  しかし、季龍は秋在の行動を見て。  ――動きを、止めた。 「――キミは今日、ボクが殺す」  ――秋在が。  ――なんの迷いもなく、一直線に。  ――鉛筆の先端を、季龍に向けているのだから。

ともだちにシェアしよう!