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ついに、秋在の表情は冷たさから一変。
「ボクはお前みたいに、打算的な気持ちでフユフサと関わったことなんてない」
熱い怒りを浮かべて、季龍を睨んだ。
季龍はそっと、冬総の椅子に手を置く。
そのまま、道化師のようにおどけてみせる。
「『打算的』って……え、ひっどいな~? オレ、そんなに頭良くないよ~?」
「知ってる」
「いや『知ってる』ってのも、ちょっと傷つくけどな~……」
「馬鹿の一つ覚えみたいに話しかけてきたのが、いい証拠だよ」
秋在の言葉に、季龍は小首を傾げた。
『馬鹿の一つ覚え』と言われても、ピンとこなかったのだ。
どこからどう見ても、秋在に対する季龍のかまい方は陽気な学生のそれだっただろう。
なにも、違和感なんてないはずだ。
しかし、秋在にとっては違う。
「――お前……あわよくば、フユフサの友達に冷たくしているボクを、フユフサに嫌わせようとしたでしょ」
季龍の手が、椅子の背もたれを強く握った。
「……なにソレ。そんなの、証拠なんてどこにもないじゃん?」
「ない。だから、フユフサにも言ってない」
「そうなんだ? オレ、春晴君と冬総はもっと何でもかんでも話し合ってる仲だと思ってたな~」
「安い挑発には乗らないってさっきも言った。……でも、これで確信したよ」
睨みながら、秋在は続ける。
「――お前は、ボクのことが嫌いなはずだ。それは、証拠がなくてもハズレじゃない。お前は、ボクが目障りで仕方ないはずだよ」
確証となる証拠は、ない。
季龍は、いくらでも言い逃れができる状況だ。
――しかし。
「――まぁ、そうだね~。……それは、正解かな~……」
――季龍はあえて、真っ向勝負を選んだ。
「そもそもさ? オレと同じゲイなのに、彼氏がいるなんて思わないじゃん? オレ、そのせいで悲惨な目に遭ったんだよ? だからオレは、他のゲイも同じだと思っちゃったワケ。コレはフツーっしょ? んで、冬総レベルのイケメンがオレと同じゲイってなったら……『コレはイケる』って思っちゃったんだよな~。……結局、好きになりかけた瞬間に春晴君っていう恋人のことを知ったけど」
季龍は秋在から視線を外し、冬総の机を見た。
その瞳はどこか……なにかを愛おしむように、細められている。
「好きになりかけた相手の好きな人がいい子なら、オレだってスッパリ諦められたよ? ……でもさ、相手は春晴君だった。春晴君が相手だったら、オレは諦めてあげられないよ。だって、春晴君はいい子じゃないからさ」
「……『いい子』?」
「うん。いい子じゃない。……だって、ワガママで自分勝手じゃん。なに考えてるのか分からせようと努力しないクセに、冬総のことばっかり振り回して。……だったら、オレの方が冬総と同じ目線でいられる。オレの方が、冬総といい感じに付き合えるって思ったし……今も、オレはそう思ってるよ」
少しずつ、距離を詰めていく。
その歩みはあろうことか、敵意を向けられている季龍のものだった。
「――ね、春晴君。冬総のこと、オレに譲ってよ。……春晴君はさ、マジメな話……冬総のこと、そんなに好きじゃないっしょ?」
季龍が見てきた秋在の姿だけでは、どうしたって冬総への愛情が見つけられないだろう。
――だからこそ。
――秋在は、鉛筆を握る手に力を込めて。
「――興ざめ」
――そのまま、力無く。
――腕を、だらりと下ろした。
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