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『興ざめ』という、たった一言。
そのたった一言で、二人の会話は……終わりを迎えようとしていた。
「……へっ?」
急展開についていけないのは、季龍も同じだ。
敵意が消失したらしい秋在に向かって、間の抜けた表情を向けている。
「え、あ……ちょ、春晴君? 今『興ざめ』って言った? え? それって、どういう意味?」
「お前は死んだ。終わり」
「いやいやいや!」
鉛筆を下ろした秋在は、そのまま季龍には目もくれず、帰り支度を始めてしまった。
鉛筆はペンポーチ、机に広げていたノートは鞄にしまい、そのまま鞄を机に置く。
用意していたコートに袖を通し始めた秋在に、季龍は詰め寄った。
「何でなんで! フツー、こっからもっと盛り上がるんじゃね~の? オレたち、バチバチのライバル同士って感じなんだろ? オレ今、割とガチでセンセンフコクってやつしたんだけど!」
マフラーを巻き、手袋をはめた秋在が、鞄を背負う。
帰り支度を済ませた後、一瞬だけ……秋在は季龍に視線を向けた。
「――お前はボクがいないときに、フユフサと関わった」
その目は、あまりにも空虚だ。
「だからお前は初めから、ボクのことをなに一つ理解してなかった。……だから、最初から仲良くしなかった。そして、今も理解しようとしないで決めつけた。だったら、未来永劫仲良くなんてしないよ」
まるで……関心の欠片もないと言いたげに。
「フユフサは、ボクが鉛筆でお前を刺し殺していても……絶対に、ボクを好きでいてくれた」
「え……ッ?」
予想外の言葉に、季龍は息を呑む。
秋在はマフラーに口元を埋め、そのマフラーへ手袋越しに触れた。
「――だからボクも、フユフサに『好き』って言えるんだ」
秋在の言っていることは、季龍にはなに一つ分からない。
ただ一つ、分かることがあるとすれば。
……それは。
「――なんだそれッ!」
――馬鹿にされている、ということだけ。
「冬総が好きでいてくれるから、春晴君も冬総に『好き』って言えるって? なんだよ、それ! そんなの結局、自分のことを好きな冬総が好きなんじゃんか! だったら、そんなのはヤッパリ【愛情】なんかじゃないだろッ!」
叫ぶ季龍に、秋在は背を向けた。
――秋在にはもう、季龍への関心は……一切、無いのだ。
「絶対ッ! オレの方が絶対にッ! 春晴君なんかよりも、冬総のことが好きだッ! コレは、絶対に絶対だからなッ!」
教室から出た秋在は、季龍の声を聞きながら……ぼんやりと、考えた。
――フユフサはきちんと、ボクのことを待ってくれているだろうか……と。
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