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 秋在と季龍が言い争いをしている中。  話の引き合いに出されていた、冬総はというと……。 (――秋在、そろそろ学校出たか……?)  ――自分の部屋で、ゴロゴロしていた。  ベッドに寝転がりながら、冬総はスマホを眺めている。  スマホの画面に表示されているのは、秋在のスマホと同期したGPSの動き。  秋在は確実に、学校から出ていた。  それは……ほんの、数十分前。  放課後に鳴ってすぐ、冬総は秋在に、こう言った。 『秋在、一緒に帰ろうぜ』  特に珍しくもない、普段通りのやり取りだ。  しかし、秋在は冬総からの誘いを断った。  それは、少しだけ珍しいやり取りだ。  もしかして、まだ秋在を怒らせているのか。……冬総は内心、かなり不安になっていた。  しかし、露骨に落ち込んだ冬総に対して……秋在は、一言だけ伝えたのだ。  ……教室でのやり取りを冬総が思い返して、数分後。  ――不意に、インターホンが鳴った。  冬総は慌てて起き上がり、玄関へ向かう。  そして、誰が来たかを確認することもなく……扉を、開いた。 「――ただいま」  ――インターホンを鳴らしたのは、秋在だ。  冬総の家だというのに、秋在は『お邪魔します』ではなく『ただいま』という言葉を選んだのだが……。 「……おかえり、秋在」  冬総はそれが、嬉しかった。  秋在を中へ招き、冬総は鍵をかける。  そのまま、秋在を自分の部屋へと案内し始めた。  ……放課後。  一緒に帰ろうと誘われた秋在は、冬総からの申し出を断った。  その代わり、たった一言だけ添えていたのだ。 『――絶対、帰るから』  それはてっきり、春晴家にだと思っていたのだが……どうやら、違ったらしい。 (俺のところに【帰ってくる】って……なんか、結構嬉しいな……)  自室の扉を開けながら、冬総は少しだけ口角を上げた。  部屋に入ると、秋在はキョロキョロと辺りを見回し始める。 「……そう言えば、俺の部屋に入ったのは初めてだったっけ?」 「うん」  一度だけ、秋在は夏形家に来たことがあった。  ……冬総の母親と、盛大な喧嘩をするために。  ……結果的に、冬総と母親……そして、夏形家の空気は良いものになったが。  珍しく落ち着きのない秋在を見て、冬総は小首を傾げる。 「俺の部屋、そんなに変か?」 「変じゃない。……と、思う。同年代の人の部屋とか、知らないから分からないけど」 「そ、そっか……」  秋在は友達をつくらない。  今の質問は不適切だったと反省しつつ、冬総は秋在を見つめ続ける。  違和感がないのなら、どうしてこんなに落ち着きが無いのだろう。  しばらく秋在を観察していると、ようやく。 「……フユフサに、抱き締められてるみたいだなって」  ――落ち着きのない理由を……秋在が、ポツリと呟いた。 「…………秋在。抱き締めても、いいか?」 「これ以上? ……ボク、壊れちゃうよ……っ」 「煽り上手になったな……!」  困ったように。  けれど照れたように視線を落とす秋在を、冬総は思い切り、抱き締めた。

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