131 / 182
8 : 21
ベッドの上で、並んで寝転がる。
「フユフサ、カッコ良かったよ」
たっぷりと愛された秋在は、冬総に擦り寄りながら、そう呟いた。
顔面騎乗位を望み、恋人の尻を舐め、あまつさえ内側を蹂躙し……。
そんな自分のどこがどう格好良く思ったのかが分からず、冬総は眉を寄せた。
「……どのあたりが?」
「今じゃなくて、ちょっと前」
「『ちょっと前』って……ン? いつだ?」
秋在の顔が、冬総の胸元へ擦り寄る。
「『不安要素は取り払う』って、言ってたの」
それは、今朝のやり取りだった。
改めて指摘されると、気恥ずかしい。
冬総は頬を掻いた。
「だからボクも、羽虫をプチッとした」
「……そっか」
「カッコ良すぎて、ちょっとだけ……ムカついたけど」
そこでようやく、合点がいく。
(あの時俺を睨んでたのは、そういうことだったのか)
てっきり、今朝の段階ではまだ怒っているのかと思っていた。
誤解が解けた冬総は、満足げに笑う。
そんなことに気付いていない秋在は、冬総に擦り寄ったまま呟いた。
「フユフサ、知ってる?」
「秋在のことなら何でも知ってるつもりだぞ」
「じゃあ、知ってるね。……ボクが浮気したら、フユフサは『浮気者』って言って、ボクを殺しに来ないとダメなんだよ」
「知らなかった……」
驚愕の事実に、冬総は出鼻をくじかれた気分だ。
小柄な恋人を抱き寄せ、冬総は思案する。
「うぅん……? でも、俺は秋在が死んだら生きていけないぞ。そうなったら、俺も後を追うしかないな。……でも、それは寂しい気がする」
「そうだね。どうせ一緒に死ぬなら、心中がいいかな……」
「そういう話じゃなくてだな……」
秋在の頭を撫でて、冬総は笑う。
「秋在がいないと俺は生きていけないから、もしも秋在が浮気したら……『浮気者』って言った後に、お前を閉じ込めるよ。俺以外に見向きもできないように、二人きりで生きていこう」
「……重い」
「あ、悪い……! 腕、重たかったか?」
「…………何でもない」
秋在に回していた腕を、冬総は慌てて引っ込める。
勿論、秋在が『重い』と言ったのは物理的な意味ではなかった。
が、無自覚の冬総にわざわざ指摘をするほど……秋在にとって伝えたい言葉ではない。
冬総の腕を引き、秋在は自身の体に回す。
「じゃあ、料理……頑張って、覚えてね」
「う……ッ! ……秋在の為なら、努力する……ッ」
「お米は洗剤で洗っちゃだめだよ? タマゴ、電子レンジでチンするのもだめ」
「それくらい分かってるっつの!」
秋在の頬を軽く引っ張り、冬総はわざとらしく怒りをアピールしてみた。
が、秋在を痛めつけることを良しとは思えない冬総は、すぐに秋在の頬を撫でる。
「……浮気、しないでくれよ? 俺には秋在だけなんだから、秋在もそうじゃないと困る……」
「うん。フユフサが浮気したら、ボクはフユフサを殺すけどね」
「な、えッ? 話が違うぞ……!」
力強く抱き締めると、秋在からも腕を回された。
(秋在とじゃれ合えることが、こんなにも嬉しいことだったなんてな……。喧嘩はしたくないけど、ある意味、感謝かもしれない……)
それでもヤッパリ、もう二度と喧嘩はしたくない。
そう思いながら、冬総は秋在の頬に口付ける。
そうすると、秋在が目を閉じたものだから。
今度は、唇にキスを落とした。
8章【合戦前エントロピー】 了
ともだちにシェアしよう!