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 秋在と季龍が、放課後の教室で言い争いをした。  その、翌朝。 「――うわッ!」  冬総の家の前に、何故か。 「あ、秋在……ッ?」  秋在が、立っていた。  いつもと同じように学校へ向かおうとしていた冬総は、突然の来訪者に当然驚く。  秋在が家の前で待っていることなんて、初めてだった。 「ど、どうしたんだ? 一緒に登校したかったなら、連絡くれたら良かったのに。……っつぅか、家の前に立ってるなら早く言ってくれよ……いくら防寒してても、寒いモンは寒いだろ?」  驚きを隠せない冬総は、黙って突っ立っていた秋在へ訊ねる。  確かに、秋在は全身を冬総から貰った防寒具で揃えていた。  かと言って、それでも冬は寒いものだ。  鼻の頭を赤くした秋在が、冬総を見上げる。 「一緒に行こう」  それだけを伝えて、秋在は歩き始めた。 (一緒に登校したがるなんて、珍しいな……?)  勿論、不満なんて一切無い。 「待ってくれよ、秋在……!」  サッサと歩き始めてしまった秋在を、冬総は慌てて追いかける。 (朝から秋在に会えるとか、メチャクチャラッキーじゃんか……!)  そんな、能天気なことを考えながら。  二人はバスに乗り、他の学生と同様、学校へ向かった。  誰かが降車ボタンを押し、学校前のバス停にバスが止まる。  次々と学生が降りていく中、冬総も続こうとした。  ――だが。 「……秋在?」  何故か、秋在が降りようとしないのだ。  座ったまま、秋在は窓の外を見ている。 「……きみたちは降りないのかい?」  どれだけ待っても、秋在は動かない。  そのことを不審に思ったバスの運転手が、冬総たちへ声をかけた。  もう一度秋在を見るも、やはり動く気配がない。 「……すみません。降りないです」 「やんちゃだね~」  運転手は笑い、そのままバスを発進させる。  冬総は秋在の隣に、腰を下ろした。 「……秋在? 学校、過ぎたけど良かったのか?」  冬総の問いに、秋在は窓の外を眺めたまま答える。 「『一緒に行こう』って言ったでしょ」  その答えに、冬総は妙な納得を示した。 (初めから、俺は解釈違いを起こしてたってことか……?)  だが、新たな疑問が生じてくる。  ――学校ではないのなら、いったい……どこへ?  だが、恐らく訊ねたところで……秋在は、答えないだろう。  そのくらい、冬総は理解していた。 (学校じゃないなら、どこに行くんだ……?)  バスに揺られながら、冬総はもう一度……恋人の横顔を眺める。  流れゆく景色を、秋在はぼんやりと見つめていた。  そこに、意味はなさそうに見える。 (……まぁ、秋在と一緒ならどこでもいいけどな)  そう思うと同時に、冬総は秋在の手を握った。  秋在はなにも言わず、視線すら返さない。  だが……冬総の手は、握り返した。

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