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 バスのアナウンスが、次のバス停を伝える。  それは、神社の名前だった。  既に行き先の思案を諦めていた冬総は、アナウンスにも興味を示さない。  しかし、突然。  ――秋在が、降車ボタンを押した。 (……神社?)  小さな神社だ。  夏になると、神社へ続く道の中で祭りが開かれたりするけれど……今の季節は、冬。  しかも、平日の朝。……催し物なんて、あるはずがない。  更に言うのなら、今から降りる神社は小さい。  秋在が興味を持つものなんて、とてもじゃないが、あるとは思えなかった。  バスが停まり、通路側に座っている冬総は立ち上がる。  そうすると、秋在も立ち上がった。  ……どうやらやはり、神社が行き先だということに間違いはないらしい。 「神社なんて、夏祭りでしか来たことないな」  バスを降りた後、冬総は独り言ちた。  同じくバスを降りた秋在が、マフラーを口元まで上げる。 「ボクは、子供の頃以来」  そう言い、秋在は冬総の腕をつついた。  手を繋いでほしいという意思表示だと気付き、冬総は秋在の手を握る。 (今日の秋在は、なんか……いつもと違うな)  突拍子もない言動は、いつも通り。  だが……どことなく、元気が無さそうだ。 (ヤッパリ、昨日の放課後……学校で、なにかあったのか……?)  冬総を先に帰らせ、秋在は一人、学校に残っていた。  季龍との争いを知らない冬総は、秋在が昨日の放課後なにをしていたのか……当然、知っているわけがない。  石の階段を上がりながら、冬総は隣に並ぶ秋在を見た。 「参拝でもしたくなったのか?」  秋在のペースに合わせながら、冬総は階段を上がる。  ゆっくりと神社へ向かいながら、秋在は答えた。 「神社のもっと奥」  どうやら、参拝が目的……というわけでも、ないらしい。 (神社の、更に奥……? なにがあるんだ?)  冬総の記憶だと、この神社の奥は……ただの、森だ。  木々が生い茂っているだけで、なにも珍しいものはないはず。  ……とは言っても、神社の奥に冬総は行ったことがない。 (秋在のことだから、タイムカプセルとか埋めてたりな)  階段を上がり、神社へと辿り着く。 「こっち」  そして秋在は宣言通り、神社の更に奥へと向かい始めた。  申し訳程度にしか整備されていない山道を、秋在は歩く。  ――その歩みは、心なしか……速い。 「秋在、ちょっと待った……!」  冬総は慌てて、繋いでいた秋在の手を引く。 「足元、危ないだろ? だから、ゆっくり行こうぜ。……な?」  秋在はようやく、冬総を見上げた。  ――その瞳は、どことなく不安そうだ。  冬総の提案に、秋在は狼狽えている。 (どうしたんだ、秋在……?)  まるで、なにかに焦っているかのようだ。  しかし、秋在は秋在なりに落ち着こうとしたらしい。  深呼吸をした後、いつもと変わらないぼんやりとした瞳で、冬総を見上げた。 「……昔話、聞く?」  本調子に戻ってきたのか、秋在がそんな提案をする。 「秋在のか? なら、興味あるな」 「じゃあ、目的地に着くまでお話しよう」  どうやら、落ち着いたらしい。  秋在は冬総の手を握りながら、もう一度、深呼吸をしていた。

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