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 目的地は、分からないまま。  冬総は秋在と、山道の散歩を楽しんでいた。 「……ボクはよく、人に『変わってるね』って言われてた」  秋在の足取りは、普段と変わらない。  先程までの妙な焦りは、どうやら消えたらしい。 「別に、イヤじゃなかった。『同じだね』って言われるより、ずっとマシ。ボクはボクの自己を確立できているんだって、嬉しかった」 「秋在らしいな、そういう捉え方」  一度だけ、秋在が微笑む。 「だから、ボクは何でもできる気になってた。皆と違うなら、ボクはボクにしかできないことができるんじゃないかって……そう思ってた」  過去形な言い方に、冬総は若干の違和感を抱く。  けれど、話に水は差さない。  黙ったまま、続きを待った。  秋在も秋在で、前を向いたまま……続きを、語る。 「だからね、ボクは家出したんだ」 「そこで【家出】って答えに直結するあたり、秋在は子供の頃から変わってないんだな」 「……子供って、家出、しない?」 「まぁ、俺もしたことあるけどさ……」  親に叱られて、一度だけ。  まだ、父親が生きていた頃の話だ。 (秋在にも、そういう時期があったんだな……)  母親は怒ったりしなさそうに見えるが、確かにあの父親なら厳しそうに見える。  自分と同じく、親に叱られて家出をしたんだろう。  ……そう思うと、全く違う人生を歩んでいたはずなのに、親近感が湧いた。 「今から行くのは、ボクが家出して向かった場所。……思い出の、場所」  こんな山奥を、家出の行き先にするなんて……。 (子供にとったら、怖いんじゃないか?)  だが、そんなところも秋在らしい。  ザクザクと土を踏みしめながら、秋在は目的地へ向かう。 「それで、今から行くのはね……」  一度、秋在は言葉を区切る。  不意に。 「――ボクが、涙を枯らした場所なんだ」  ――冬総の手を握る秋在の手に、力が籠った。  秋在の雰囲気が、少しだけ変わったように思える。 (家出をして、不安だったから……って理由じゃ、なさそうだよな)  秋在の瞳に、迷いはない。  けれど、どことなく……不安のような色が窺えた。 「だから、フユフサに来てほしかったの。大事な話をするなら……あの場所が、よかったの」 「……大事な、話……?」  秋在を見て、もう一度、前を向く。  するとそこには……池のような川が、広がっていた。 「今から話すのは、ボクにとって大事な話。……もしも、フユフサにとっても大事な話だったなら……凄く、嬉しいな」  どうやら、この川辺こそが……目的地らしい。  秋在は冬総から手を離し、数歩先を歩いた。  そのまま、クルリと、冬総を振り返る。  ――その姿が、あまりにも幻想的で。  ――何故だか冬総は、不安になってしまった。

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