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どうしていきなり、そんなことを打ち明けてくれたのか。
秋在にいったい、どんな心境の変化があったのか……冬総は、知らない。
きっと、分かってもあげられないのだ。
――それでも。
「――俺は、秋在が好きだ」
――冬総は【分からない】ことを理由に、秋在を突き離そうとはしなかった。
依然として顔を覆っている秋在へ、冬総は一歩ずつ……ゆっくりと、確実に近付く。
「絶対に、秋在以外を選んだりしない。俺は、秋在がいないと笑えないんだよ。俺は……秋在と、幸せになりたい。……だから……ッ」
近寄り、距離を詰め。
「――ちゃんと、俺の前で泣いてくれよ……ッ」
――秋在を、抱き締めた。
秋在の体が、ビクリと震える。
「お前が悲しいと、俺だって悲しい……ッ。だけど、秋在が泣けないと……俺も、秋在と一緒に泣けないんだ……ッ。気持ちを、分かってあげたいのに……そう、秋在に誓ったのに……果たせなくなるんだよ……ッ!」
力を入れると、折れてしまいそう。
そのくらい、秋在は華奢で、小柄で……弱い。
――それなのに、涙が流せないなんて……。
――【枯れた】だなんて悲しいことを、思わないでほしかった。
「……ボクは、酷いんだよ……っ? ジャマな虫は、羽を千切らないと気が済まないんだよ……っ?」
「俺のことが好きだから、そうしたんだろ? だったら、どんなことでも俺は受け止められる。受け入れたいって思うんだよ。もっと悪いことをしても、秋在が俺を嫌いになっても……俺は、秋在から離れてやれないんだ」
「フユ、フサ……っ。……ボクは、ボク以外にはなれない……っ。それでも、いいの……っ?」
それは、秋在にとって曲げられない信念。
それと同時に……【冬総には秋在を一生理解できない】という、小さな反抗。
けれど。
「――秋在と付き合ってるって打ち明けた日から、俺には秋在だけだよ」
――それが、どうした……と。
冬総は、真剣に思った。
「秋在には、秋在のままでいてほしい。俺は、秋在が【秋在だから】好きなんだぜ?」
顔を覆っている秋在の手を、冬総はゆっくりと剥がす。
情けなく瞳を揺らす秋在と、目が合った。
「……ン。秋在は、どんな顔してても可愛いよ。いつもの真っ直ぐな目も、今の震えてる目も……ずっと、見ていられる。だから、隠さないでくれよ。……な?」
「フユフサ……っ?」
「俺を信じて、打ち明けてくれたんだろ? 自分が悪い奴だなんて、そうそう誰かに告白できることじゃないと思うぜ、俺は。……だから、秋在は凄い」
頭を撫で、冬総は秋在に、笑みを向ける。
「――全部、話してくれてありがとう、秋在。……俺も、秋在のことが大好きだ」
秋在がどんな悪人であろうと、それが【春晴秋在】ならば、冬総は嫌わない。
思い描いていた理想の自分から、秋在自身が離れてしまったとしても……秋在を嫌う理由には、ならなかった。
「何度でも言うけどさ。……俺は、秋在を愛してるよ」
その、瞬間。
「……ぅ、あ……っ」
秋在の瞳から。
――一粒の、涙がこぼれた。
その涙を追うように、秋在の両目から……大粒の涙が、ポロポロと溢れる。
そして、ついに。
「――ぅ、ぁあっ、あぁぁ、っ!」
――秋在は、泣き始めた。
「――イヤだ、やだぁあっ! フユフサ、お願い……っ! 他の人を好きにならないでっ! 他の人に好かれるのも、ヤダよぉ……っ! ボクだけのフユフサでいてよっ! ヤダ、ヤダぁあっ!」
大声で泣きじゃくり、そのまま秋在は、冬総へ抱き着く。
「カッコ悪いって思わないで……っ! ボクはもう、フユフサを手放せないんだ……っ! だから、ずっと……ずっと、ボクだけのフユフサでいてくれなきゃイヤだっ! 他の誰のものにもならないでぇ……っ!」
泣きつく秋在を抱き締めて、冬総はその背を撫でる。
「分かってる、分かってるって。……俺には、秋在だけだ。他の人に好かれたりしても――」
「遅いんだよバカぁあっ!」
「えぇッ? わ、悪かった! ちゃんと気を付けるから……ッ! ……えっ? なにが『遅い』んだ……ッ?」
秋在の怒りが、イマイチ理解できない。
それでも冬総は、泣き始めた秋在の背を何度も撫で……必死に、あやし続けた。
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