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それから、十数分後。
秋在はようやく、泣き止んでいた。
涙で濡れた目尻や頬を、冬総はポケットティッシュで拭う。
「……落ち着いたか?」
後ろから秋在を抱き締めながら、冬総は訊ねる。
目元を真っ赤に腫らした秋在は、コクコクと何度も頷いた。
「ン。……ヤッパリ、秋在はいつだって可愛い」
子供のように泣きじゃくり、駄々をこねる姿なんて初めて見たが……それでもやはり、冬総の秋在へ対する想いに変わりはない。
……むしろ。
「俺のことが好きすぎて泣いちゃう秋在とか、俺が愛さないワケないっつの。あ~、秋在可愛いなァ……。好きだぞ、大好きだ。俺の秋在は銀河一だぞ」
――秋在へ対する想いは、増幅する一方だった。
「……知ってる」
小馬鹿にされたと思った秋在が、だらしのない表情をしている冬総とは対照的に、唇を尖らせる。
しかし……そんなムッとした表情も、冬総にとってはツボだった。
「いいや、全然分かってない。俺は秋在のことがメチャクチャ好きだ。秋在が両腕を広げたって、俺が秋在に向ける愛の大きさを表現できないぞ」
「……知ってるってば」
秋在も、年頃の男だ。
あまり愛でられすぎるのも、悔しいのだろう。
ムッとした表情なままの秋在を見て、さすがにこれ以上伝えると怒らせるかと思い、冬総は別の話題を探す。
「……そういえば、さ。秋在は何で、ここで泣いてたんだ? ヤッパリ、家出をしたから不安になった~……とか?」
秋在はここで『涙を枯らした』と言っていた。
それほどまでに深い悲しみを抱いた理由を、冬総が知りたがるのは当然だろう。
しかし、秋在は閉口している。
(もしかして、思い出したくない話だったのか……?)
話題のミスチョイスに、冬総は内心で慌てた。
「わ、悪い……。もしかして、嫌な話……だった、とか?」
秋在が涙を枯らすのだから、それだけ悲しい出来事だったのだろう。
配慮が足りていなかったと、冬総は自分を責めた。
しかし、秋在は機嫌を損ねてはいない。
「――フユフサは、水面に映る月を……どうやって、助ける?」
そんな、実に秋在らしい問い掛けをしてきたのだから。
ふと、冬総は川へ視線を向ける。
あの川に、月が反射していたとして。……それを見ても、冬総は『月が困っている、助けなくては』とは、決して思わない。
――けれど、秋在は『助けたい』と思ったのだろう。
ならば、秋在を想う冬総だって……月を『助けたい』と思って、当然だった。
「そう、だな……?」
かと言って、今まで一度も【月を助ける方法】なんて、模索したことがない。
冬総は必死に頭をフル稼働させて、考えられる最大の可能性を思案する。
そして、呟いた。
「――いっそ、月が川に映んないように……なにかで遮る、とか?」
その、答えに。
「…………えっ?」
秋在は、目を丸くした。
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