138 / 182

9 : 7

 それから、十数分後。  秋在はようやく、泣き止んでいた。  涙で濡れた目尻や頬を、冬総はポケットティッシュで拭う。 「……落ち着いたか?」  後ろから秋在を抱き締めながら、冬総は訊ねる。  目元を真っ赤に腫らした秋在は、コクコクと何度も頷いた。 「ン。……ヤッパリ、秋在はいつだって可愛い」  子供のように泣きじゃくり、駄々をこねる姿なんて初めて見たが……それでもやはり、冬総の秋在へ対する想いに変わりはない。  ……むしろ。 「俺のことが好きすぎて泣いちゃう秋在とか、俺が愛さないワケないっつの。あ~、秋在可愛いなァ……。好きだぞ、大好きだ。俺の秋在は銀河一だぞ」  ――秋在へ対する想いは、増幅する一方だった。 「……知ってる」  小馬鹿にされたと思った秋在が、だらしのない表情をしている冬総とは対照的に、唇を尖らせる。  しかし……そんなムッとした表情も、冬総にとってはツボだった。 「いいや、全然分かってない。俺は秋在のことがメチャクチャ好きだ。秋在が両腕を広げたって、俺が秋在に向ける愛の大きさを表現できないぞ」 「……知ってるってば」  秋在も、年頃の男だ。  あまり愛でられすぎるのも、悔しいのだろう。  ムッとした表情なままの秋在を見て、さすがにこれ以上伝えると怒らせるかと思い、冬総は別の話題を探す。 「……そういえば、さ。秋在は何で、ここで泣いてたんだ? ヤッパリ、家出をしたから不安になった~……とか?」  秋在はここで『涙を枯らした』と言っていた。  それほどまでに深い悲しみを抱いた理由を、冬総が知りたがるのは当然だろう。  しかし、秋在は閉口している。 (もしかして、思い出したくない話だったのか……?)  話題のミスチョイスに、冬総は内心で慌てた。 「わ、悪い……。もしかして、嫌な話……だった、とか?」  秋在が涙を枯らすのだから、それだけ悲しい出来事だったのだろう。  配慮が足りていなかったと、冬総は自分を責めた。  しかし、秋在は機嫌を損ねてはいない。 「――フユフサは、水面に映る月を……どうやって、助ける?」  そんな、実に秋在らしい問い掛けをしてきたのだから。  ふと、冬総は川へ視線を向ける。  あの川に、月が反射していたとして。……それを見ても、冬総は『月が困っている、助けなくては』とは、決して思わない。  ――けれど、秋在は『助けたい』と思ったのだろう。  ならば、秋在を想う冬総だって……月を『助けたい』と思って、当然だった。 「そう、だな……?」  かと言って、今まで一度も【月を助ける方法】なんて、模索したことがない。  冬総は必死に頭をフル稼働させて、考えられる最大の可能性を思案する。  そして、呟いた。 「――いっそ、月が川に映んないように……なにかで遮る、とか?」  その、答えに。 「…………えっ?」  秋在は、目を丸くした。

ともだちにシェアしよう!