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 クリーム色の瞳を、丸くして。  秋在は後ろに座る冬総を、見上げた。 (う……ッ。失敗した、のか……?)  これは、根本的な解決にはなっていない。  つまり……秋在が望む答えではない可能性が、高かった。  しかし、冬総にはそれくらいしか思いつかない。  呆然と自分を見上げる秋在を見て、冬総はいたたまれない気持ちになる。  だが、意外にも……。 「――そ、っか……」  秋在は、そう呟いた。  なにかに納得したのか、秋在はブツブツとなにかを呟いて……数回、頷いている。 「えっと……あ、秋在……? 俺の答え、ヤッパリ変――」 「ねぇ、フユフサ」  冬総を見上げて、秋在は……。  ――笑った。  目元を腫らし。  ほんの少し赤くなった目元と、痛々しい姿。  そのはず、なのに……。 「――フユフサは、いつだってボクを理解しようとしてくれるんだね?」  ――その姿は、いつもの毅然とした秋在だった。  ふにゃりと笑った秋在を見て、今度は冬総が驚く。  そして。 「……当たり前だろ。あの日の放課後、俺はそう言ったじゃんか」  秋在に続いて、冬総も……笑った。 「まぁ……秋在にとったら、大したことじゃなかったかもしんないけどさ。……それでも、俺にとってあの日は……すっげェ、特別だったんだ」  あの日。  秋在と共に教室の床を汚した、放課後。  冬総は確かに、誓ったのだ。 『――じゃあ、理解してやるから教えてくんない?』  あれは、絵に描いたような【売り言葉に買い言葉】というものだった。  今思い返すと、あまりにも挑発的だ。  それでも、冬総にとってあの日の放課後は……おそらく、人生で一番、大切な日。 (それを秋在と共有できないのは……ちょっと、寂しいかもな……)  冬総にとっては特別でも、秋在にとっては特別なんかではないかもしれない。  冬総にとっての【非日常】は、秋在にとっての【日常】だ。  それが、埋められない溝な気がして……ほんの少しだけ、寂しく思えた。  ――しかし。 「――ボクにとって、あの日は……宝物」  何の気なしに、秋在が呟いた言葉が。 「……ッ」  冬総にとって。  ……とても、とても。 (――そう、だったのか……ッ)  ――特別な言葉に、思えた。  同じ気持ちを共有できていることが、こんなにも嬉しいだなんて。  冬総は、秋在を強く抱き締めた。 「……絶対、秋在のこと……百パー分かるようになってみせるからな」 「うん。……でも、同じじゃなくても好きだよ」 「俺だって、同じ気持ちだ。秋在のことが大好きだよ」 「じゃあ、同じだね」  そう言って、お互いに微笑み合い。  どちらからともなく、顔を寄せた。

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