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 翌週の、学校で。 「先週は二人で学校サボって、いったいなにしてたんだよ~?」  季龍が、冬総へ話しかけた。  ちなみに、秋在はいない。いつも通りの休みだろう。  冬総は顔を上げて、キリッと、決め顔を作った。 「かつてないほど、愛を深めてきた……!」  渾身のドヤ顔を向けられて、季龍は一瞬だけフリーズしていたが……冬総は気付いていない。 (女子相手だとこんな露骨すぎる惚気話はしないんだが、四川はいいだろ。ダチだし)  フリーズしていた季龍は、慌てて笑みを浮かべた。 「へ、へ~? ……でもさ。春晴くんって、冬総が春晴くんを好きでいてくれるから、好きなんじゃないのか?」  その笑顔は、引きつっている。 「まぁ、そうだな……?」  どうして、先週知ったばかりのことを季龍も知っているのか。  冬総は若干驚きつつも、素直に肯定する。  しかし、季龍は肯定されるとは思っていなかったらしい。 「『そうだな』って……冬総は、それでいいのかよ? 好きだから好きって、なんか……利用されてる感じしないか?」  そう言いながら、心底驚いている様子だ。  転校してきたばかりで、秋在との交流だって少ないはずの季龍は……やけに、興奮している。  確かに、秋在はそう言っていた。  冬総が秋在に『好き』と言うからこそ、自分も『好き』と返せる……と。 (そう考えると、ある意味では……俺の好意を利用しないと、自分の気持ちを伝えられない……ってことになるのか?)  そんな控えめでいじらしい秋在に、ときめき以外のなにを見出せばいいのか。 「四川の言ってることはもっともだが……だからこそ、可愛いんじゃねェか?」 「んん~?」  冬総は小首を傾げながら、季龍を見上げる。 (なんか、若干……話が、噛み合ってないような……?)  季龍の意見を肯定しているのに、何故か季龍は不可解そうだ。 「いいんだよ。秋在は俺が好き。それで、俺の方が秋在を愛してる。んで、俺たちはメチャクチャ幸せ。……な? どこにも問題なんかないだろ?」 「いや、え……え~?」 「にしても、何で秋在が俺のことを好きかどうかって気にしてんだよ? 変な――」  そこで、冬総は。  ――気付いて、しまったのだ。 「――お、お前……! まさか、俺のライバルなのか……ッ?」  ――てんで、的外れなことに。 「どうしてそうなった!」  季龍のツッコミを、冬総は鮮やかにスルーした。 (そ、そうだったのか……! たぶん、秋在は先週……四川に告白されたんだな!)  一度だけ、冬総と帰りを別にしたあの日。  きっと秋在は、季龍から告白されたのだろう、と。  だから、秋在の様子が変だったのだ。  ……冬総の勘違いを止める方法を、このクラスの誰も持っていなかった。 「言っとくが、俺は秋在を渡したりしねェぞ! 俺は、秋在命! 秋在至上主義だからな! いくらダチでも、そこは引かねェッ!」 「大声でなに言ってんだよ、冬総!」 「悪霊退散!」 「ダチって言いながら悪霊扱いすんな!」  そんなツッコミを入れた後、季龍はガックリと肩を落とす。 「……なんか、オレ……舞い上がってたのかもな~……」  そう言いながら、項垂れている季龍の本心に。 (秋在への気持ちを、勘違いかなにかだと思ってるのか、コイツ……! 秋在の可愛さを前にしたら、誰だって舞い上がるだろうがッ!)  冬総は最後まで、気付けなかった……。

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