142 / 182

9 : 11

 季龍との激戦を終えた、その日の放課後。 『とまりにきて』  学校を休んでいた秋在から、そんなメッセージが送られてきた。 『準備したらすぐに向かうな』  冬総は一瞬の迷いも見せず、即座に返信をする。  どうしていきなり泊まりのお誘いをしてきたのか、なんて疑問は後回し。  冬総はバスに揺られながら、母親へのメッセージを打っていた。 (……よし、これでオッケーだな)  秋在の家に泊まるので、晩飯は要らない。  そういった主旨のメッセージを送った後、冬総はスマホをポケットにしまい込んだ。 (着替えと、手土産にお菓子でも持っていくか? ご家族用と、秋在と一緒に食べる用と……あとは……?)  バスを降り、駆け足気味に家へ向かう。  すぐさま自室で、泊まりの準備を始める。  買う物リストを脳内で作成しながら……ふと、冬総は動きを止めた。 「……コンドームは、どっちだ……?」  ポツリと、心の声が漏れ出る。  さすがに、ご家族がいる中で行為に及ぶのはハードルが高い。  しかし、秋在のことだ。  そういう気分になれば、きっと冬総を誘うだろう。  そのとき……もしも秋在の部屋にコンドームがなかったら、どうする。 「あぁぁ、でも……ッ! もしも秋在がその気じゃないのにコンドームを用意していたことがバレたら、軽蔑されるかもしれねェ……ッ!」  決して、そういうことを期待していないわけではない。  だが、期待しまくっているのかと問われれば……そういうわけでもないのだ。  冬総は自分のシャツに顔を埋めて、しばらく悶々とした後。  ……スッ、と、立ち上がった。 「……ま、まぁ? 今日使わないにしても、いつかは使うしな、絶対」  そう結論付けて、冬総はコンビニでコンドームを調達しようと誓ったのだ。  春晴家の、前。  冬総がプレゼントした防寒具を装着した秋在が、外で冬総のことを待っていた。  何度見ても、自分がプレゼントしたもので埋まっている秋在は……可愛い。  ひっそりと胸キュンしながら、冬総は秋在に近寄った。 「悪い、待たせたか?」 「平気」  座り込んでいた秋在が、立ち上がる。  そんな秋在に、冬総はコンビニで調達した手土産を渡した。 「コレ、大したモンじゃないけど、ご家族に。……秋有くんにも」 「ありがと」  秋在は笑みを浮かべて、お菓子が入ったレジ袋を受け取る。  そしてそのまま春晴家に入り、秋在は冬総から受け取ったレジ袋をリビングのテーブルに置いた。  そして、テーブルの隅に置いてあるメモ用紙に『フユフサから』とだけ書き、レジ袋のそばに置く。 「夜になったら、お父さんたち帰ってくる。……その前に、仲良し……する?」  確かに、ご両親が帰ってきたら自重しなくてはいけない。  だが、かと言って家に着いた途端いきなり手を出すというのも……獣じみていて、冬総は気後れしてしまう。  夜に我慢するため、今すぐ抱いていしまうというのは……あまりにも節操無しな気がしてならない。 「う、うぅん……?」  目に見えて苦悩している冬総の手を、秋在は引いた。  そしてそのまま、自分が巻いているマフラーに触れさせる。 「夜は、静かに……ね?」 「……そういうの、どこで覚えてくるんだよ……ッ」  少なくとも、冬総は教えていない。  数ヶ月前までは処女だったはずの秋在も、今ではすっかり冬総を誘惑するプロだ。  秋在は小首を傾げて、冬総を見上げる。 「ボクとするの、イヤ? ……それとも、今日は仲良し……したく、ない……?」 「………………する」  結局。  冬総は、年頃の男なのだ。

ともだちにシェアしよう!