148 / 182

10 : 4

 そして迎えた、放課後。  冬総は秋在と共にバスへ乗り、いつもと同じように秋在を家まで送っていた。  ……その間も、秋在はずっとムッとしていたが。 (目に見えてムッとしてる秋在も、可愛いっちゃ可愛いんだが……)  ――まさか、そこまで怒らせるとは。  冬総は、考えていなかったのだ。 「あ、秋在……? 俺、今日はちょっと行きたいところあるから、家には寄らないんだけど……」  難しい顔をしている秋在を見て、冬総はおずおずと声をかける。  予想通り、秋在は返事をしなかった。 「……もしかして、お、怒ってる……のか?」  秋在との喧嘩は、したくない。  テストで赤点をとり、親に怒られるよりも避けたい事象だ。  すると、秋在はポツリと呟いた。 「――悩んでる」  たった、その一言を。 (もしかして……プレゼントのこと、とか……?)  だとしたら、こうして弱気な態度で接するのはよろしくないだろう。 「お、おう……。……サンキュ?」  テクテクと隣を歩く秋在は、依然として難しい顔のままだ。  そんな秋在を見下ろしていた冬総は、不意に辺りを見回す。  その後……秋在へ、キスをした。 「……え、っ?」  秋在が、一瞬だけ目をパチパチと瞬かせる。 「や、いきなり、ごめんな……? その、なんて言うか……その顔、ヤッパリ可愛いなって思って……」 「…………ふぅん」  尖った唇。  眉間に寄せられた、皺。  普段の秋在はどちらかと言えば無表情で、感情を表に出さない。  そんな秋在が、ここまで露骨に表情を変えているのだ。  ――冬総の、誕生日プレゼントを考えて。  そう分かると、愛おしさが込み上げてしまうのも不思議ではないだろう。  秋在はすぐに前を向き、歩き始める。  すると、すぐに春晴家に到着した。 「またな、秋在」  玄関まで秋在を見送り、冬総は手を上げる。  秋在はなにも言わず、冬総に向かって手を振った。  扉が閉まったことを確認した後、冬総はすぐに踵を返す。 (……よし!)  そして冬総は、駆け足気味に歩き始めた。  そして、冬総が辿り着いたのは……。 「……マジ、か」  ――戦場。  ……のように見える、スーパーだった。  バレンタイン特設コーナーには、様々な年代の女子が揃っている。  思わず呟いた冬総は、少しだけ身を引いた。 (お、俺は……今からこの激戦区に、突入するのか……ッ!)  全員、バレンタインチョコを求めてやって来た者たち……いわば、同志だろう。  ――しかし、ギラギラとした闘志のようなものを感じる。  女子のバレンタインに対する想いを、冬総は嘗めていたのかもしれない。 (だ、だけどな……! 俺だって、秋在を想う気持ちはギラッギラなんだぞ……!)  この戦場でひしめく女子がその気なら、冬総だってそうあろう。  ――郷に入っては、郷に従え。  ――これは、冬総の愛を確かめられているのかもしれない。  愛する秋在のため、冬総はバレンタイン特設コーナーへ……男一人、突撃したのであった。

ともだちにシェアしよう!