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そして迎えた、放課後。
冬総は秋在と共にバスへ乗り、いつもと同じように秋在を家まで送っていた。
……その間も、秋在はずっとムッとしていたが。
(目に見えてムッとしてる秋在も、可愛いっちゃ可愛いんだが……)
――まさか、そこまで怒らせるとは。
冬総は、考えていなかったのだ。
「あ、秋在……? 俺、今日はちょっと行きたいところあるから、家には寄らないんだけど……」
難しい顔をしている秋在を見て、冬総はおずおずと声をかける。
予想通り、秋在は返事をしなかった。
「……もしかして、お、怒ってる……のか?」
秋在との喧嘩は、したくない。
テストで赤点をとり、親に怒られるよりも避けたい事象だ。
すると、秋在はポツリと呟いた。
「――悩んでる」
たった、その一言を。
(もしかして……プレゼントのこと、とか……?)
だとしたら、こうして弱気な態度で接するのはよろしくないだろう。
「お、おう……。……サンキュ?」
テクテクと隣を歩く秋在は、依然として難しい顔のままだ。
そんな秋在を見下ろしていた冬総は、不意に辺りを見回す。
その後……秋在へ、キスをした。
「……え、っ?」
秋在が、一瞬だけ目をパチパチと瞬かせる。
「や、いきなり、ごめんな……? その、なんて言うか……その顔、ヤッパリ可愛いなって思って……」
「…………ふぅん」
尖った唇。
眉間に寄せられた、皺。
普段の秋在はどちらかと言えば無表情で、感情を表に出さない。
そんな秋在が、ここまで露骨に表情を変えているのだ。
――冬総の、誕生日プレゼントを考えて。
そう分かると、愛おしさが込み上げてしまうのも不思議ではないだろう。
秋在はすぐに前を向き、歩き始める。
すると、すぐに春晴家に到着した。
「またな、秋在」
玄関まで秋在を見送り、冬総は手を上げる。
秋在はなにも言わず、冬総に向かって手を振った。
扉が閉まったことを確認した後、冬総はすぐに踵を返す。
(……よし!)
そして冬総は、駆け足気味に歩き始めた。
そして、冬総が辿り着いたのは……。
「……マジ、か」
――戦場。
……のように見える、スーパーだった。
バレンタイン特設コーナーには、様々な年代の女子が揃っている。
思わず呟いた冬総は、少しだけ身を引いた。
(お、俺は……今からこの激戦区に、突入するのか……ッ!)
全員、バレンタインチョコを求めてやって来た者たち……いわば、同志だろう。
――しかし、ギラギラとした闘志のようなものを感じる。
女子のバレンタインに対する想いを、冬総は嘗めていたのかもしれない。
(だ、だけどな……! 俺だって、秋在を想う気持ちはギラッギラなんだぞ……!)
この戦場でひしめく女子がその気なら、冬総だってそうあろう。
――郷に入っては、郷に従え。
――これは、冬総の愛を確かめられているのかもしれない。
愛する秋在のため、冬総はバレンタイン特設コーナーへ……男一人、突撃したのであった。
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