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 バスに揺られながら、冬総は秋在にもたれかかっていた。 「あのさ、秋在。……お願いがあるんだけど、いいか?」  もたれかかることはあっても、逆は初めて。  秋在はピシッと背筋を伸ばしながら、冬総を見た。  そのまま頷き、冬総からの言葉を待つ。 「……誕生日、おめでとうって言ってくんない?」 「うん。……フユフサ。誕生日、おめでとう」 「ん、ありがと、秋在」  秋在の肩に、冬総はグリグリと額を寄せる。 「あー……ヤベェ。今日、一番嬉しい……」  たまたま持っていたエコバックから、溢れんばかりに姿を覗かせるプレゼントの山。  それらだって十分嬉しいが、冬総にとっては秋在からの言葉こそ至高。  へらりと、弱々しい笑みを冬総は浮かべる。  秋在は、人と話すことをあまり好まない。  だからこそ、冬総が誕生日を祝福してくれた人全員へ丁寧にお礼を言う労力は、想像もできなかった。  秋在は俯き、ポツポツと呟く。 「……プレゼント、なんだけど。……お願いされた通りに、してみた。……嬉しい?」 「ン?」  冬総は顔を上げて、俯く秋在を見つめる。 (……俺、なんかお願いしたっけ……?)  物が欲しいとは、言っていない。  ましてやなにをしてほしいとも、言った記憶がなかった。  冬総が小首を傾げると、秋在は続けて呟く。 「――悩むボクがいいって、言ってたでしょ? ……嬉しかった?」  不安げに、秋在は冬総を見つめた。  そこでふと、冬総は秋在とのやり取りを思い出す。 『【嬉しい】の中でも、上の方のものを教えて』 『しいて言うなら……そうやって、俺のために悩んでくれてる秋在、かな』  まさか、と。  冬総は内心で、盛大に驚く。 (あの言葉を……秋在は、そう受け止めたのか……?)  勿論、プレゼントとして求めたつもりではなかった。  冬総にとってあの言葉は、欲しいものではない。  ただ、それだけで十分幸せだと。そういう意味で伝えた言葉だった。  しかし、秋在との間に齟齬が生じていたのは事実。 「……ボク、うまくできてなかった……かな?」  不安そうに、冬総を見つめている。  この秋在の姿こそが、なによりの証拠だ。 (だから、秋在はずっと……ムッとした顔をしてたのか……?)  そう考えると。 「――すげェ、幸せ……ッ」  ――愛しさが、込み上げてきた。  例え、勘違いだとしても。  抽象的で、意味が分からなかっただろうに。  秋在は冬総のため、忠実に遂行しようとしたのだ。  そんな秋在に対して、呆れや落胆なんて感情が浮かぶわけがない。  冬総は再度、秋在にもたれかかる。 「秋在、もう一個お願い。……好きって言ってくんないか?」 「フユフサ。大好き」 「ん、サンキュ。……俺も、大好きだ」  体を密着させ。  それでは足りないかのように、手を握り。  冬総は、自分が向けられる最大の愛情を……愛しい恋人へ、贈り続けた。

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