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目元を真っ赤に腫らした秋在が、指を指す。
「今日、全然話せなくて……それ、渡せなかった」
秋在が指を指しているのは、玄関に置き去りだった秋在の荷物。
散々秋在を堪能した冬総は、自分と秋在の荷物を玄関から取ってきたのだ。
指が指されたものを見て、冬総は小首を傾げる。
「それ、って……? この、袋か?」
布に包まれた、謎の物体。
秋在は普段、こんなものを学校に持ち込んでいなかった。
そこそこ質量のある【なにか】を掲げて、冬総は秋在を振り返る。
「見て」
ベッドで横たわる秋在は、起き上がろうとしない。
……起き上がる体力が、残っていなかった。
珍しく、秋在が『もうムリ』と言っても、冬総は秋在を解放しなかったのだ。
……秋在とは正反対に、冬総は生命力に溢れているが。
秋在から言われるがまま、冬総は布に包まれた【なにか】の中身を暴き始める。
その中に、入っていたのは……。
「――弁当箱?」
見覚えのない弁当箱だった。
秋在はいつも、昼にパンを食べている。
つまり、これは秋在用の弁当箱ではない、ということ。
冬総は秋在が普段使っている勉強机に座り、弁当箱を開けた。
「……すげェッ! メチャクチャ綺麗だッ!」
蓋を開けて、冬総は目を輝かせる。
弁当箱の中には、彩り豊かなおかずが詰められていたのだ。
「コレ、秋在の手作りか?」
「うん」
「マジかッ! ……コレ、今食べてもいいか?」
「いいけど……お夕飯、入らなくならない?」
律儀に用意されていた箸を握りながら、冬総は手を合わせた。
「俺の家、誕生日だからって特別なにかするワケじゃねェからさ。だから、大丈夫だ! ……あっ、食べる前に写真撮らねェとな!」
一旦箸を置き、冬総は慌てて写真を撮り始める。
まるで子供のようにはしゃぐ冬総を眺めながら、秋在は目を細めた。
「フユフサ、幼児退行したみたいだね」
「秋在の手作り弁当を前にしたらそうなるっての! いただきますッ!」
もう一度手を合わせて、冬総はおかずに箸を伸ばす。
アスパラのベーコン巻きを、冬総は口に運ぶ。
そして。
「――美味いッ!」
カッ! と、目を開いた。
「うま、えっ、美味いぞ秋在ッ!」
「うん」
「嬉しいッ! メチャクチャ嬉しいぞ、秋在ッ!」
「うん」
大はしゃぎしている冬総を、秋在は眺める。
まさか、手作り弁当ごときでここまで喜んでもらえるとは……。
少なからず喜んでくれるとは分かっていたが、想像以上。
秋在はそのことに、嬉しいやら気恥ずかしいやら……複雑な気持ちになる。
「米も美味い……炊いてくれたのは秋在のお義母さんか? ……お義母さん、ありがとうございます……ッ!」
「いつもはそうだけど……今日はお米炊いたの、ボクだよ」
「秋在……ッ! あぁぁもうッ、大好きだッ!」
「うん」
――ほんの数分前まで、獣のように自分を犯してきたのと。
――目の前で、お弁当に向かって謎の祈りを捧げている男が。
同一人物なのかどうか……秋在は一瞬だけ、疑ってしまった。
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