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舌鼓を打ち。
ときには、両手を合わせて祈りを捧げ。
感嘆の声を高らかに上げる冬総を。
秋在はただ、微笑ましそうに眺めていた。
「まさか、秋在が作ってくれた愛妻弁当が食えるなんて思わなかった……ッ。あぁ、嬉しいなァ、クソッ!」
「愛妻…………。……何で、悪態吐いてるの?」
喜びながらも、冬総は時々悔しそうに呻いている。
それが引っ掛かり、秋在は小首を傾げた。
冬総は弁当を睨むように見つめたまま、キッパリと言い切る。
「だってよ、本当はコレ……学校で食べられたかもしれないんだろ? 秋在の手作り弁当を周りに自慢するチャンスだったし、なにより学校で食うっていうプレミアム感……ッ! それが、若干悔しいッ!」
思いの丈を吐き出すと、冬総は再度、食事を再開した。
「……はァ、美味いなァ……! 手作り弁当が貰えるって分かってたら、無理矢理でも二人きりになったかもしれねェ……ッ! ってか、なってた! 絶対!」
「言うべきだった?」
「いやッ! どっちみち食えたし、独占できてるっていう事実も嬉しいから問題無いッ!」
「フユフサは、いつでも幸せなんだね」
それほどまでに、自分を愛してくれている。
そう思うと、プレゼントを贈った側のはずなのに……秋在も、嬉しくなってしまう。
手を止めて、冬総はベットで横たわる秋在を振り返った。
「秋在、本当にありがとな! ……って、なんか俺、馬鹿っぽい感想しか言えてない気がしてきた……」
「そんなフユフサもいいと思うよ」
「馬鹿っぽいってのは、否定しないんだな……」
「『ぽい』じゃなくて『バカ』だよ」
「サディスティックな秋在も好きだ……ッ!」
先程まで好き勝手されていた男とは思えないほど、秋在は気丈だ。
慈愛に満ちた目で、冬総を見つめている。
そんな秋在を見ていると、冬総まで同じ目を向けてしまう。
「……俺さ。たぶん今、世界で一番の幸せ者だよ。……たぶんってか、確実に」
「【絶対】なことなんて、きっとこの世界にはないよ?」
「だけど、これは【絶対】だ! 俺が決めたんだからな! 根拠は俺だ!」
「ヤッパリ、フユフサはおバカさんだね」
字面は冷たくても、声には温かみがある。
秋在は目を細めて、冬総を見つめていた。
「フユフサ、気付いてないのかな。……口の端に、お米」
「マジか、勿体ねェな! サンキュー、秋在!」
「お米粒一つも残さないで食べてくれるの?」
「当たり前だろ!」
指で、口の端を拭う。
そのまま米粒を口に含み、冬総は笑った。
「秋在が作ってくれたモンなら、例え土の上に落としても食うって!」
――不衛生だよ。
その言葉を、秋在は飲み込む。
「ふーふーしてね」
冬総が、あまりにも嬉しそうに笑うから。
秋在は、冬総の気持ちに水を差そうとは思えなかったのだ。
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