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 誕生日という、大きなイベント終えた。  ……その、翌日。  ――冬総は、参っていた。 「夏形くん、ハッピーバレンタイン!」 「三倍返しが鉄則なんだからね、冬総くん!」 「夏形、コレあげるわね。……バレンタインのチョコよ」  冬総の誕生日。  その、翌日。  ――二月十四日。  ――バレンタインデー当日。  冬総は、見誤っていたのだ。 (――俺って、モテるのか……ッ!)  そんな、周知の事実を。  誕生日の祝われ方から、少しでも推測しておくべきだった。  冬総は律儀にお礼を言い、チョコを受け取りながら……内心で、困惑している。 (同じクラスの女子だけじゃなくて、他クラスからも貰うとは。……それに、全く接点がないはずの上級生からも……)  朝のホームルーム前から、休み時間になる度に。  冬総は様々な女子生徒から、バレンタインの贈り物を受け取っていた。  そして……ようやく少し落ち着いた、昼休み。 「よっ、モテ男! ハッピーなバレンタインか~?」  ぐったりと脱力している冬総の席に、季龍が近寄った。  冬総は顔を上げて、正面に立つ季龍を見上げる。 「――エコバックを寄越せ」 「強盗犯かよ!」  冬総が疲弊するのには、十分すぎる理由があった。  ――まず第一に、秋在がいない。  これだけで、冬総のヒットポイントはゼロになっていた。  そして先程も言った通り、冬総は休み時間の度に声をかけられ続け。  挙句の果てに、数分前の授業では。 『――夏形。ちょっと、机の周りが賑やかだな……?』  そう、教師に言われた始末。  わざと賑やかにしたわけではないと、教師は分かっている。  しかし、目に余るほどの量だったのだろう。  教師含め、冬総以外のクラスメイトが苦笑いしていたほどだ。 「いや~……ここまでモテてる男は、さすがに初めて見たわ」 「俺も、自分のモテっぷりを侮ってた……」 「そのセリフ、ヘタしたら男に刺されるぞ~」  教室にいる男子生徒が数名、冬総を睨んでいる。  が、疲弊しきっていた冬総には、妬みに構う余裕がなかった。 「まっ、こんだけ貰ってたら感覚もマヒるか! ……って、んん? それも貰ったやつか? ってか、何で一個だけ置いといてるんだよ?」  季龍が、指を指す。  それは、机の横にかけてある紙袋だった。  先程の授業中に、冬総は貰ったチョコを全て、後ろのロッカーにしまい込んだ。そのことを、季龍は知っている。  だからこそ、一つだけ置いてあるチョコが気になったのだ。 「いや、コレは……そういうのじゃねェよ」  一つだけ、横に置いたままの紙袋。  ――それは、冬総が秋在のために用意したものだった。

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