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 冬総は朝一番で、秋在にチョコを渡そうとしていた。  しかし、秋在は学校に来ていない。  渡せないまま、文字通り宙ぶらりんな状態で放置されているのだ。  季龍は自分の鞄から、エコバックがないかと探し始める。 「あ~……なんとなく察したわ。……オレが貰ってやろっか?」 「察したなら何でその提案が出てくるんだよ、絶対やらねェ」 「ジョークだって、ジョーク! そんな怖い顔すんなよな~! ……ま、半分だけだけど」 「ン? 最後、なんか言ったか?」  季龍は冗談めかして、肩を竦めてみせた。  ……余談ではあるが、まだ、季龍は完全に冬総を吹っ切れていない。  だが、絶賛勘違い中の冬総には……。 (俺が秋在にチョコを渡すの、阻止しようとしたのか……? コイツ、マジで抜け目ねェな……ッ!)  このように見えていた。  季龍は、エコバックを冬総に手渡す。 「サンキュ。……っつゥか、四川こそチョコとか貰ってないのかよ。ダチ、多いだろ」  借りたエコバックに贈り物を詰めるべく、冬総は立ち上がる。  そんな冬総の後ろをついて歩きながら、季龍はニカッと明るい笑みを浮かべた。 「オレは女子からプレゼントとか貰わないんだよな~。一応カミングアウトはした身だけど、知らない人がいたら期待させるの申し訳ないっしょ?」 「それもそうか。……考えてるんだな、そういうの」  箱や紙袋を、エコバックに詰める。 (甘いもの、か……)  今は、昼休み。  そして、お昼ご飯を食べたばかり。  食後のデザートとして、これほどまでに魅力的なものはないだろう。  だが、冬総は小さく首を横に振る。 (放課後、もしかしたら秋在から貰えるかもしれないし……もしも貰えるんなら、それを一番に食いたい……)  なんとか食欲を抑えつつ、冬総は借りたエコバックに詰められる分だけの贈り物を詰めた。  放課後になり、冬総はスマホを取り出した。 『これから、家に寄ってもいいか?』  秋在に、メッセージを送るためだ。  ……ちなみに。  秋在の位置情報は、同期したGPSで把握済み。  つまり、秋在は家にいるのだ。  ポコンッ、と、スマホが音を鳴らす。 『いーよ』  いつも、秋在からの返事は早い。  待っていてほしいという旨のメッセージを送った後、冬総は帰り支度を始める。  そして、後ろのロッカーを振り返った。 (……貰ったチョコとかは、どうするか……)  このまま持って行って、秋在と一緒に食べたっていい。  だが、秋在はこれを見て……どう思うだろうか。 『他の人を好きにならないでっ! 他の人に好かれるのも、ヤダよぉ……っ! ボクだけのフユフサでいてよっ!』 『ずっと、ボクだけのフユフサでいてくれなきゃイヤだっ! 他の誰のものにもならないでぇ……っ!』  神社の裏で打ち明けてくれた、秋在の本心。  冬総は、少し考えた後……。 (……ヤッパリ、家に持って帰ろう)  秋在の家へ向かうより、先に。  冬総は、貰ったプレゼントを自宅に持って帰ることとした。

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