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一度家に帰った冬総は、荷物を置いてすぐ、秋在の家へ向かった。
見慣れた道を歩き、春晴家のインターホンを鳴らす。
すると、すぐに扉が開かれた。
「おかえり」
「……ッ、た、ただいま……ッ」
秋在が、冬総を出迎える。
言葉を詰まらせた冬総は、小さく頭を下げてから扉をくぐった。
(昨日は手料理――もとい、愛妻弁当を食べたし、そもそも俺たちってほとんど毎日会ってるよな……? それで、今『おかえり』って言われたし……もしかして俺たち、実質夫婦なんじゃないか?)
そんな、浮かれたことを考えながら。
玄関の扉を閉めた後、秋在は冬総を見つめて……。
「……貰ったの」
眉間に、皺を刻んだ。
秋在の視線は、冬総の手に向かっている。
――冬総が持っている、紙袋だ。
(貰ったプレゼント、家に置いてきて正解だったな……)
自分の行動に、冬総は思わず『ナイス』と言いたくなった。
持っているのは、確かにバレンタインのチョコだ。
しかし、冬総が貰ったものではない。
「違うよ、貰いモンじゃないって。……コレ、秋在に」
そう言い、冬総は持っていた紙袋を秋在へ手渡す。
「ハッピー……なのかは、よく分かんねェけど。一応、ハッピーバレンタインってことで」
「…………ボク、に……?」
秋在は、自分用だとは思っていなかったのだろう。
渡された紙袋を受け取るまでに、数秒の間ができた。
ようやく受け取ったとき、秋在はポツリと呟く。
「――てっきり、ボクが用意する側だと思ってた。……ボク、仲良しするとき、女の子側だから」
「え……ッ?」
距離を詰めた秋在から、甘い香りが漂う。
冬総の頬が、無意識に緩んだ。
(こ、これは、もしかしなくても……ッ!)
秋在は、受け取った紙袋を抱き締め。
「――今日、休んでチョコ作ってた。……食べて、くれる?」
上目遣いで、そう訊ねた。
冬総は、膝から崩れ落ちそうになるのをなんとか堪える。
――そして。
「――ハレルヤ……ッ!」
――十六年の人生で最も力強いガッツポーズを、秋在に披露した。
そんな冬総を見て、秋在は小さく微笑む。
「【歓喜】に【感謝】……よかった」
「秋在ッ! 大好きだッ!」
「わ……っ。フユフサ……紙袋、潰れちゃうよ……っ」
幸せを噛み締めながら、冬総は秋在を抱き締める。
突然抱擁を贈られた秋在は、冬総から貰った紙袋が潰れてしまわないよう、距離をとろうとした。
そんな秋在の肩を抱き、冬総は顔を見つめる。
――そこで、あることに気付いた。
「秋在……?」
「なに?」
名前を呼ばれた秋在は、小首を傾げている。
違和感に気付いた冬総は、ほんの少しだけ悩む。
(……キス、今はやめておくべきか……?)
冬総はそう考え直し。
もう一度抱き締めた後、頬にキスを落とした。
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