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終章【恋模様シーイング】 1

 誰かが開けなくちゃいけない箱が、あったとしよう。  だが、その箱を開けたらどうなるのか……。  それは、誰も知らない。  ……そんな、恐ろしくも魅惑的な箱が、あったとしよう。  誰も触れることができないその箱を見て、彼なら。  ――秋在なら、こう言うのだろう。 『――ボクが開けてあげる』  それは、善意なのか。  それとも、ただのカリギュラ現象なのかは……誰にも、分からない。  真意は、秋在本人ではないと分からないのだから。  しかし……開けようとする秋在だって、その箱がどんなものなのかは知らない。  それでも、秋在はたとえ、どんな箱だったとしても……我先にと、開けてしまうのだろう。  ――その箱を開けたら、世界がより良い方に変わると……分かっているのなら。  ――その箱を開けたことによって、秋在がどう変わるとしても。  ――その行為が、いい未来に繋がるのなら。 「――だけどッ! ヤッパリ職員室に殴り込みは駄目だって、秋在ーッ!」 「――マジで落ち着けし、春晴く~ん!」  時刻は、昼休み真っ只中。  お弁当を食べ、教室やグラウンド、他にも中庭で……沢山の生徒が、思い思いの過ごし方をする時間。  そんな中、冬総と季龍は。 「……っ!」  ――二人がかりで、秋在の【特攻】を止めようとしていた。 「秋在、秋在ッ! そんな可愛い顔して睨んでも、駄目なものは駄目だッ! ……くッ!」 「オイ冬総! 春晴くんに見つめられて力緩めんなってマジで!」 「ハッ! わ、悪い四川――オイ四川ッ! 俺の秋在にベタベタ触るんじゃねェッ!」 「イヤ、冬総の情緒ッ! 不安定かってッ!」  場所は、廊下。  厳密に言うのなら……先程、冬総が言っていた通りの場所。  ……【職員室へと続く廊下】だ。  秋在の腕を左右で掴んでいる冬総と季龍が、突然仲間割れをする。  ……主に、冬総が一方的に仕掛けているのだが。  その隙を狙い、秋在は全速力で職員室へ向かおうとした。 「オイ四川ッ! 秋在が逃げたじゃねェかッ!」 「冬総ってガチめに春晴くん関係だとめんどくせ~な~ッ! もうバックハグして連れ帰って来いって!」 「よし分かったッ! フッ、さぞ羨ましいだろうなッ! お前はそこで指咥えて待ってろッ!」 「あぁぁッ! ポンコツ冬総マジめんどくせ~ッ!」  冬総は季龍に頼もし気な視線を送った後、急いで秋在を追いかける。  ……余談だが、秋在は体育の成績がそこまで良くない。  むしろ、悪い。  対して、冬総の成績はいつだって一番上だった。 「――秋在ッ! 捕まえたッ!」  全速力で追いかければ、秋在一人を捕まえるくらい……冬総にとっては造作もないこと。  後ろから秋在を抱き上げ、冬総は走ってきた方向をクルリと振り返る。 「フユフサ、放して」 「一旦落ち着こうぜ、秋在。……な?」 「…………」  見上げる秋在を真っ直ぐに見つめると、視線を逸らされた。  ……どうして、冬総と季龍が秋在を追いかけていたのか。  事の発端は、数分前へと遡る。

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