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終章 : 2

 きっかけは、季龍の一言だった。 『――そういえば! 進級したらクラス替えだよな! 冬総~? 春晴くんと一緒になれるといいな~?』  昼休みが始まって、約三分。  ……カシャン、と。  冬総は、握っていた箸を床へ落とした。 『……クラス、替え……?』 『そう、クラス替え。……いや、何だよその【初めて聞きましたその単語】って言いたげな顔は~?』 『俺と秋在が、離れる……?』 『この世の終わりみたいな顔するなよな~?』  焼きそばパンを頬張る季龍は、笑顔だ。  対する、冬総はと言うと……。 (――ま、全く考えてなかったぞ……ッ!)  ――予想もしていなかった問題に直面し、愕然としていた。  今は、三月の頭。……もうじき、春休みだ。  そんな中、季龍は浮上して至極当然な話題を振った。  ……ただ、冬総にとっては盲点だったというだけで。  話題の提供者である季龍は笑っているが、冬総はどう頑張っても笑えない。  ――秋在と、クラスが別になる。  ――それは冬総にとって、一大事なのだから。  冬総は頭を抱えて、絶望の色を含んだ声で呻く。 『秋在の寝顔が見られない授業とか、なにしたらいいんだよ……ッ!』 『や、フツ~に勉強だろ? なんで春晴くんも寝てる前提なんだよ?』 『お前、鬼の末裔かなにかかよッ! 秋在の貴重な睡眠時間を何だと思ってるんだッ!』 『睡眠時間じゃなくて、勉強の時間なんだけどな~?』  冬総は露骨に憤慨し、正面の席に座る季龍を睨んだ。  秋在が絡むと、冬総の思考回路はポンコツ化するということを……季龍は、クラスで一番理解している。  だからこそ、飄々と会話が続行されていくのだ。  ギャイギャイと、冬総と季龍が揉め始める。  そうこうしていると……。 『――クラス、同じがいい?』  隣の席で寝ていたはずの秋在が、目を覚ました。  眠たげに細められたクリーム色の瞳が、青ざめた顔の冬総を映す。 『起きたのか、秋在! ……そりゃ当然、一緒がいいに決まってるだろ! 勿論、秋在も俺と一緒がいい……よ、な?』  口にしている途中で、自信を失くしていく。  すると、秋在は。  ――なにも言わずに、立ち上がった。  そしてそのまま、季龍はおろか冬総に一瞥も向けず、歩き出す。 『分かり切ったことを訊いたから、怒らせたのかもしれない……ッ』 『やけにポジティブだな~。そんなんじゃないだろって~?』  冬総が怯えるも、歩き出した秋在は止まらない。  誰を気にすることもなく、教室から出て行ってしまった。  その様子を見送っていた冬総が、ポツリと呟く。 『……嫌な予感、しねェか?』 『奇遇だな、冬総。オレも今、似たような気配を感じてた』  冬総と季龍は一度、顔を見合わせる。  そして、一度だけ頷き合い。  二人は即座に立ち上がり、教室から廊下へと出る。  廊下を走ったのか、秋在の背中はとても小さくなっていた。  秋在の動向を後ろから眺めていた二人だったが、秋在の目的地がどこなのか気付くと……。 『――秋在ッ! ストォオップッ!』 『――春晴くん! タ~イムッ!』  ――二人はほぼ同時に、秋在を確保した。  秋在を確保した、その場所は……。 『――全員、殴って従わせる』  ――職員室前だった。

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