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終章 : 3
男前思考すぎる秋在に、冬総は惚れ直した。
……という話は、ひとまず割愛。
秋在を背後から抱き上げたまま、冬総は教室へ戻っていた。
その後ろには、季龍もいる。
「秋在、落ち着こうぜ。気持ちはメチャクチャ嬉しいけど、いきなり殴り込みなんてしたら……そもそも、進級すらできなくなるかもしれないだろ?」
「そうだぜ、春晴くん。冬総の言う――」
「進級も殴って従わせる」
「春晴く~ん? オレ、まだ喋ってたんだけどな~!」
秋在は冬総によって、自分の席に座らされた。
そして、季龍のことを徹底的に無視している。
(うーん……? マジで、二人の間にはなにがあったんだ……?)
季龍が、冬総に恋をしてしまい。
それを、過激すぎる方法で秋在が牽制した。
なんて事情を知らない冬総は、今日も今日とて。
(まさか、四川の奴……嫌がる秋在に、無理矢理なにかしたんじゃないだろうな?)
勘違い継続中だった。
起きてすぐ職員室へと向かった秋在は、遅めの昼食を始める。
その表情は、未だ納得していなさそうだ。
「でもよ? マジでどうなるんだろうな、クラス替え」
「俺は秋在がいないと学校に来る意味がなくなるから、割と本気で困る。進級以前に、将来が」
「初めっからそういうことを学ぶ場所なのに、何で将来が不安になるんだろうな~?」
神妙な表情で呟く冬総に、季龍は呆れ顔を向ける。
すると。
「……ン?」
ツンツン、と。
秋在が、冬総の腕をつついた。
隣の席へ視線を送ると、秋在が冬総に指を向けている。
その指には、千切られたパンがつままれていた。
まるで条件反射かのように、冬総は口を開く。
「あー、んぐ。……ン、美味いッ!」
「よかった」
「オレ、目の前にいるんだけどな~! 何です~ぐ二人の世界を作っちまうんだよ~!」
季龍が喚くも、冬総は眉を寄せるだけだ。
(四川の奴、ピーピーうるせェな。秋在からの『あーん』は俺の特権だってのに、なにを今更ヤキモチなんて妬くんだか……)
季龍は、秋在が好き。
そう思い込んでいる冬総にとって、喚く季龍は【嫉妬に狂っている】ようにしか見えない。
(まぁ、気持ちは分かるがな)
理解を示した後、冬総は大仰に頷く。
(秋在が俺以外の奴に『あーん』してたら、確かに妬くな。だけど、仕方ないんだぞ、四川。秋在は俺の彼氏なんだから)
妙に誇らしげな気持ちになった冬総は、もう一度秋在を振り返る。
「秋在、秋在。もう一口、俺にくれないか?」
思わず調子に乗ってしまい、冬総はもう一度口を開いた。
すると、気分屋な秋在は……。
「ダメ」
と言って、パンを素早く隠してしまったではないか。
「や~い! 拒否られてやがんの~!」
「く……ッ! 気分屋な秋在、最高に推せる……ッ!」
「マジで爆発しろマジで」
豪快にイチャつく二人を見て、今日も季龍は肩を竦めることしかできなかったのであった。
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